交易都市ブレーチャ

交易の都市、ブレーチャ。

ベリテ共和国とフラハリア王国の国境くにざかいにあるこの都市は元々、両国の商人などが貿易を重ねるにつれてできた中継地のような場所であった。


それがいつしか人が集まり建物が建てられ、そこに目を付けたギルドや教会など多数の組織が集まったことで一つの都市と相成った。都市の成立上、どっちの国に属さず中立の立場を取っている。


両国の間を流れるドルマック川を跨ぐように出来たこの都市では、川を利用した事業も多く、川魚を対象とした漁業や水運業も盛んである。冬には川面が結氷し、それを利用して滑る遊びも行われている。


交易の要地であるここには様々な職種、国の人々が訪れる。大部分は宝石や地方の特産物、食糧を卸しに来た商人だが、中には集まった美食や珍味目当てで来たお忍び貴族や珍しい品を求めてきたコレクターも現れる。


晴れ空の下を活気良く行き交う人々の喧騒をよそに、大通りにて人を掻き分けるように進む人物が一人。


「さぁて、ギルドは何処かな…」


それは先日バッタ型魔物を素手で殴り飛ばした少年、ラックであった。都市の門にてここまで運んでくれた御者や護衛達と別れを告げた彼には一つ、たった一つ見過ごせない問題があった。


「金がねぇ…」


そう、金が無いのである。

故郷にて荷物運びをする等して稼いだ金は何処へやら。どうやらラックの貯めた金銭は馬車の運賃で溶けたようだ。思っていたよりも運賃が高く、宿屋で宿泊する余裕もない。ブレーチャに着いた後ひとまず休んでから当初の目的であるギルドでの登録、それから仕事を探そうと思っていた彼は、その予定を繰り上げギルドに向かっていた。


「あ”~身体痛ぇ…特に尻だな…」


慣れない馬車での移動はラックの身体を、とりわけ尻を痛めつけたようだ。バキバキと音が聞こえそうなほど固まった身体をほぐしながら歩いていると、目の前に大きな建物が見えてきた。


3mほどもある大きな看板には右手の甲を模したようなマークが刻まれている。何でもそれぞれの指に意味があるらしいが、ラックは余り興味がなく覚えていない。彼は看板を一瞥してギルドの中へと入った。


内装は交易都市という人の流入が激しいところにあるためか小綺麗にまとまっていて、座って料理の注文や作戦会議を行うためだろうテーブルが椅子とセットで設置されている。依頼を確認するボードと受注するためのカウンターが横並びになっておりすぐに依頼を受けやすい設計になっている。


他には資料室や役員用だろう赤塗になっている扉が目立ったが、それらを尻目にラックはカウンターまで淀みない足取りで歩いていく。


カウンターに立つ緑髪の職員のもとまで着くと彼は開口一番


「登録お願いします!」


と元気よく言った。ギルド職員の女性は新緑を思わせる瞳を驚いたように少し瞠目させたがそこは幾人もの来客を捌いてきたプロ故かすぐに営業的な笑顔を浮かべると


「はい、ご登録ですね。200バルになります。」


言われた金額を財布から出して払う。ギリギリ払えて安堵のため息を吐くラックを見ながら女性は言葉を紡ぐ。


「では私、ギルド職員のフレスカから説明させて頂きます。」


フレスカと名乗ったギルド職員は指を立て笑顔を浮かべながらラックに説明し始めた。


「まず最初に、ここワーカーズギルドでは魔物討伐や護衛任務、店の仕事の手伝いなど斡旋される多岐に渡るます。これらの仕事にはギルドから発行される下げ札、ギルドタグの携帯、提示が必要となります。また依頼の達成には、討伐でしたら対象か対象の一部。護衛や作業でしたらギルドが依頼人に送った完了手形が必要になります」


つらつらと流される言葉の洪水に早くも流されそうになっているラックだが、何とか理解しようと眉間に皺を寄せながら耳を傾けている。


「要は依頼にはギルドタグ、依頼完了には魔物の一部か手形が必要ということです」


「…あぁなるほど!全部理解した!」


―この人余り理解していませんね


フレスカはそう思ってそうな苦笑いを浮かべていたが、指摘はしてこなかった。まぁ依頼をこなしていけば嫌でも覚えると考えたのだろう。


「ギルドタグの発行を行いますので、お名前をこの紙にお書きください」


「はい!Lack、と」


ラックは自分の名前を書いた後、フレスカから「発行には3時間程かかりますので、その間に町を回ってはいかがでしょうか?」と言われたので町を回ることにした。


まずは飯を食べれるとこと防具屋の下見に行こう、武器屋は―拳で戦う予定だからいいか、などと考えながら少年は往来の中へと消えていった。

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