巨岩の冒険家
梅干し三太郎
始まり
頑丈な少年
陽はちょうど明るくなったころ、春の陽気が漂う気持ちの良い朝である。
町に住まう人々はベッドから身を起こし、一日の始まりを体感しているところだろうか。
良く晴れた青空の下をガラガラと音を立てながら移動する物体が3つ。それは石の轍が並ぶ道を進む馬車であった。最後方で馬を進ませる御者は、いつ何が出てきてもいいように前を見渡しながら荷台の後ろから顔を出し景色を眺める少年に話しかける。
「落ちねぇように気をつけろよ。運賃を貰っている手前こんなことを言うのは何だが、いちいち止めたくねぇからよ」
「心配せず前だけ気にしててくれ。体幹には自信がある方なんだ」
「そうかい…じゃあ前だけ見とくかね…」
再び前方に意識を向ける御者とは対照的に、少年は後方の景色を暇をつぶしに見ていた。次から次へと現れては流れていく景色。物珍しくもない光景はしかし移動中の暇をつぶすにはちょうど良いものだった。
1時間程そうしていると、前を走る馬車から何やら騒ぎ声が聞こえてきた。
「おい!魔物が出たぞ!戦える奴はさっさと来い!」
「おいあんた戦えるだろ?行って来てくれ」
「はいよ。まぁぼちぼちやるかね」
ちょうど身体を動かしたかったところだし、と言いながら馬車から降り現場に行くと、そこには大きな飛蝗型の魔物が5匹。通称ヘッドバッカ―と呼ばれるこの魔物は強力な跳躍力を以って相手に強襲。その突貫力で相手を倒す。大方馬車に積まれた薬草類を狙って襲ってきたのだろうが、このキャラバンには護衛がいる。
盾持ちがヘッドバッカ―の突進を受け止めその隙に側面から叩く。そうして仕留められていくヘッドバッカ―だが、1匹が馬車の方へ飛び出してしまう。
「まずいぞ!荷台が壊されちまう!」
「あいつを止めろ!」
怒号が飛ぶ中、少年が飛蝗の前に立ちはだかる。すかさず自慢の後ろ脚を駆使して突撃するヘッドバッカ―。そのまま少年に激突し少年の身体が宙を舞―わず。少年の身体は地に縫い留められたように動かず飛蝗の身体を受け止める。じたばたともがき逃れようとするヘッドバッカ―を左手で捕まえ、拳を振りかぶる。
「ッセイ!」
気合一閃。横腹に突き立てられた拳はヘッドバッカ―を勢いよく吹き飛ばし、地面にぶつかりながら転がらせる。勢いが収まった後に残るのは、飛蝗型魔物の死骸だけだ。
「いよっし!」
「おーい!手が空いたんなら手伝ってくれ!」
ガッツポーズをする少年にヘッドバッカ―の相手をしていた連中が声をかける少年はそれを聞いてすぐに手伝いに行った。
日は暮れ、キャラバンは魔物避けの香を焚き野宿の構えだ。馬は馬車から離され、そこらへんで草を食んでいる。
「お前すげぇなボウズ。ヘッドノッカーの突進を真正面から受け止めるなんてよ。」
「へへっ、身体の硬さには自信があるんだ」
ヘッドノッカーは犬くらいの大きさがあり、その質量から繰り出される体当たりは直撃すれば無事では済まない。それを受け止めあまつさえ殴り飛ばすのは異例のことだった。
「しかし意外だな。お前の防御力なら衛兵とかでも食っていけそうなんだが」
「俺は世界を見て回りたいんだ。色んな所に行ってみたいから衛兵はやらん」
「なるほどな…なぁボウズ、お前の名前は?」
「俺はラックっていうんだ!おっちゃんは?」
「俺か?俺は…」
そうこうしている内に夜は更けていく。やがて喧騒は鎮まっていき、最後には見張りの持つ松明の爆跳の音だけが残っていた。
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