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僕は、跳ねるように起き上がった。完全に覚醒していない脳は、必死に視覚から得る情報を分析して、現在と僕を繋ぎ合わせようとする。見渡した視界は、見慣れた僕の部屋しか映さなかった。
瞼を閉じて、消えた視界に意識を集中する。記憶を辿り、映像を映す。
『ダメ!!!』
浮かび上がるのは、言葉と表情。そのどちらも、紛れもなく、拒絶だった。
僕はその記憶から逃げるように目を見開いて、大きく深呼吸をした。自分を落ち着かせるように何度も繰り返し、項垂れるように、額に手を当てる。
「・・・どうして、だよ」
溜め息と共に、言葉が漏れる。混濁する感情に、歯を食い縛る。
なぜ、拒絶されたかが分からない。現実ではないとしても、良好な関係は保てていたはずだ。彼女も、僕の事を悪くは思っていなかったはずだ。それが、どうして・・・。
混濁して沈む感情に、溜め息しか零れない。寝起きのせいか、思考も上手くまとまらない。僕は何度目かの溜め息の後、緩慢に立ち上がって洗面所を目指した。
顔を冷水で洗い、その刺激で少しでも思考を現実に馴染ませる。感情を支配するように大きく深呼吸をして顔を上げ、鏡に反射する僕を僕は見つめた。
覚めた思考で咄嗟に浮かんだのは、明里灯火だった。
僕は部屋へと戻り、携帯を手にする。慣れた手付きで操作をし、履歴から彼女の番号を見付けてタップする。
耳に当てると、断続的な電子音。灯火なら、何か知っているはずだ。事故の件について、警察から直接事情を聞いているからだ。その情報の中に、彼女が拒絶する理由もしくは手がかりがあるはず。
『どうした?』
挨拶も交わされず、ハスキーな声が僕の耳に届いた。
「話がある」
『知っている。内容を言えといった意味なんだが?何もなければ電話などしない』
「会って話がしたい」
『なら、今日は暇だ。来ればいい』
「分かった」
僕が相槌を打つと、別れの言葉もなく電話が切られた。僕は急いで支度を整え、部屋を後にした。
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