39
立ち上がり、苦しそうな謝罪の言葉と共に崩れ落ちた彼女の元に駆け寄り、僕はそっと彼女の肩に触れた。乱れた呼吸と、小さな震えが、掌から伝わる。
その涙に、その
なぜ、彼女が、こんな思いをしなければいけないのか。
それが、僕には、分からなかった。
「・・・ごめん、なさい。・・・ごめん、なさい。・・・うっ、ごめんなさいぃ!」
呪詛のように繰り返される、謝罪の言葉。込み上げる感情に僕は歯を食い縛り、空いた掌を握り締めた。
そんな言葉が、聞きたいんじゃない!
今にも大声で吐き出しそうな言葉を、僕は空を仰いで震える喉から無理矢理吐き出した深呼吸でかき消した。目を瞑り、混乱を始めた思考で必死に言葉を探す。
傷付かないように。傷付けないように。
「・・・大丈夫。・・・落ち着いて」
僕はまるで自分に言い聞かせるように、呟いた。僕の声で、彼女はびくっと肩を震わす。その仕草に、僕は更に声音を意識する。少しでも、怯えを取り払えるように。
「一葉。君は何も悪くない。だから、・・・謝らないで」
「・・・で、でも!!!」
僕の声に答えるように、彼女は顔を上げた。瞳は赤く、頬は濡れていて、その悲哀に満ちた表情が、僕の胸を痛めつける。
彼女は、どこまで、知っている?
「違うんだ。・・・君は、僕を救ったんだ」少しでも彼女が落ち着くように、僕はなるべく優しく微笑みを浮かべた。「君のお陰で、僕はここに居る。君のお陰で、こうして生きてる」
「・・・え?」
涙に濡れた表情のまま、彼女は首を傾げた。どうやら少し落ち着きを取り戻してくれたらしい。僕は小さく安堵の息を漏らし、彼女に手を貸して石の上に座らせてから、僕が知っているだけの情報を、彼女に与えた。
「・・・そう、なんですか」
僕の言葉に涙を拭いながら耳を傾けていた彼女は、ようやく事故の事態が飲み込めたらしく、小さく息を漏らした。僕は彼女の前の地べたに座り、そっと表情を窺う。少しでも、不安は取り除けただろうか。
「・・・でも、私」
「もう謝らないで。僕の方こそ、ありがとう。君があの時咄嗟にハンドルを切っていなければ、僕はもう生きていないし、君と出逢う事もなかったんだ。だから・・・、ありがとう」
「・・・はい」
完全に納得は出来ていないだろう。それでも彼女は混乱する感情にどうにか折り合いをつけて、微かではあるが口元を緩ませて頷いてくれた。僕はそっと胸を撫で下ろす。
「・・・会えない?」
「・・・えっ?」
唐突に、僕は声に出していた。聞き返した彼女の表情に、僕は驚く。
始まりは、興味。
それは次第に、気付かぬ内に、変化していた。
無意識に言葉となって、僕は気付いた。
興味が、好意になっていたんだ。
それに気付いた僕の頬は、自然と緩んだ。
「・・・会いたい。会って、きちんと、面と向かって。君に、お礼が言いたいんだ」
その直後、表情を変えた彼女は、微かに息を吸って、声を荒げた。
「ダメ!!!」
刹那、
視界が、暗転した。
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