27
「・・・不安に、なったりしない?」
他愛もない会話が続き、一瞬訪れた静寂の隙間を縫って、僕は一葉に疑問を投げた。コロコロと表情を変えて楽しそうに話していた彼女は、突然の僕の言葉にきょとんとした表情を浮かべる。
「・・・不安?」
「そう。不思議だと片付けられればそれでも良いと思うんだけど、こんな事が起こるのは、多分何か原因があると思うんだ。それが、何かは分からないけど・・・」僕は頭の中を整理しながら言葉を探す。「その原因は、良いものなのか悪いものなのかは分からない。そう考えると、不安にならない?その原因は、何かしらの異常じゃないかって」
「んー、そういう言われ方すれば不安に思うかもしれないですけど・・・」一葉は考えるように眉を顰めて首を傾げる。しかし視線を落とした彼女は、難しい表情をすぐに解いた。「でも私は、良いかなって」
「・・・どうして?」
「上手くは言えないんですけど、私が、私のままだから。それに・・・」一葉は顔を上げて隣の僕に視線を向けると、小さく微笑んだ。「こうして、弦さんとも知り合えましたし」
「・・・そっか」
言葉の意味は分からなかったが、視線を落とした一葉の表情に、一瞬悲哀の色が浮かんでいた気がした。それを振り払うように顔を上げて笑顔を浮かべたのではないかと、僕は感じた。その一瞬の表情が思うよりも目に焼き付き、それ以上この話題の追求が出来なくなる。
「弦さんは、その、・・・不安なんですか?」会話が途切れると、一葉は沈黙を嫌うように首を傾げながら口を開いた。「この、何ていうか、不思議な夢が」
「・・・そうだね。少し、不安かな」僕は再び辺りに視線を這わせながら、頭を掻いた。「元から理解出来ないもの。例えば人間の感情とか、そういったものだったら何も気にはならないと思う。理解出来ないものと、理解しているから。でも、これは違う。きっかけは分かってるんだ。ただ、原因が、調べても分からないんだ。だから、不安になる」
「きっかけ?」
一瞬の静寂。僕は目を瞑り、記憶を呼び覚ます。焼ききれたフィルムのような断片的な映像が、瞼の裏に映し出される。
青の信号。
軽自動車。
トラック。
コンクリート。
「あぁ。・・・多分、あの事故からだ」
僕の言葉に、一葉は微かに息を呑んだ。
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