25
「これは・・・」
「・・・ほぅ?」
僕と灯火は同時に声を上げた。雄介は僕達の反応を少し楽しむかのように、口元を緩ませて僕らに向けている液晶画面をゆっくりとスライドさせていく。そこには、件の森の中の寺が様々な角度で映し出された写真が次々と流れていった。
何枚見ただろうか。釘付けになっている僕に雄介はどうだとばかりに満足げな笑みを浮かべて、携帯をテーブルに置いた。
「どうだ?この場所で間違いないか?」
雄介の問いに、僕は沈黙を返した。口元を結び、思案に耽る。幾度もスライドされた画像を必死に記憶を呼び起こし結びつけようと試みる。記憶に残る景色はモノクロだが、そこは想像で補い類似点がないかを必死に探す。視覚の映像と、記憶の映像を必死に重ね合わせる。
「・・・多分」僕はゆっくりと口を開いた。鳥居だけでは判断は出来ないが、全体的な森の中の雰囲気。そしてスライドされた映像の中に幾つか見られた石段の映像や隅に映る大きな石の映像から、僕は判断した。「ここだと、思う」
「・・・この寺は、隣の市だ。昨日話を聞いた限りではただの夢の話だと思った。ほら、夢だったら正直、何があってもおかしくないだろ?だから調べる意味があるのかと疑問に思った。でもお前がそんな下らない冗談なんか言わないって知ってたから、半信半疑で近場で同業の知り合いに当たってみたんだ。結果が、これだ」雄介は携帯を仕舞うと、真剣な表情を浮かべて僕の隣で黙り込んでいる灯火に視線を向けた。「これって一体、どういう事だ?」
「どういう事だと言われても困るな」隣の灯火は憮然とした態度で雄介の質問にそう答えると、テーブルのマドレーヌに手を伸ばした。「私も先程弦の会話を聞かせてもらったばかりだ。何も考え始めていない」
マドレーヌを頬張る灯火に、そりゃそうだと言わんばかりに雄介は苦笑してソファの背もたれに寄りかかった。
「弦、明日は暇なのか?仕事の後は?」
「え?」マドレーヌを平らげた灯火の不意の質問に、僕は声を上げた。「まぁ仕事も辞めたから、暇だね」
「何だ。仕事辞めたのか?」僕の問いに目を見開き、灯火はまたマドレーヌを手にする。テーブルの上にある箱の中身は既に半分が消化され、その全ては彼女の胃袋の中だった。「何なら、紹介するか?選ばなければ、いくらでもあるぞ?」
「いや、今はいいや。少しゆっくりしたいんだ」
「まぁ、その気になったらいつでも声を掛けてくれ」
灯火はマドレーヌをくわえたまま立ち上がり、キッチンのある方角へ歩き出した。僕と雄介はその後ろ姿を眺めながら、冷めかけたコーヒーに手を伸ばす。
灯火は後ろ姿のまま、キッチンの端で立ち尽くしていた。後ろ姿だからハッキリとは見えないが、何か手に持った物を操作しているらしい。振り返った彼女の手元には、タブレットが握られている。
「明日の昼過ぎにまたここに来てくれ。私が車を出そう」灯火は再び僕の隣に座り、少し悪戯な笑みを浮かべる。しかし、注がれる瞳は、笑っていなかった。
「直接確かめて見て欲しい。その場所に行き、その場所に立ち、間違いがないか。その情報によっては、私の考え方も変わってくるかもしれないからな」
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