21
「・・・どうして、分かった?」
僕は驚きのあまり、言葉を選ぶ事もなく純粋に問いかけた。昨日の電話では、用件は何も話していない。驚きの表情を隠さない僕を見つめながら、灯火は口元の笑みをそのままに不思議そうに首を傾げた。
「簡単な事だよ。私の専門分野を付き合いの長い君は知っているはずだ。その上で、私に相談をしたいという。そして、私の元に来る依頼や相談のほとんどが、精神科医やカウンセリングから
灯火は組んだ足を解き、少し前のめりになる。口元だけに笑顔を讃えたまま、無表情な、何もかもを見透かしたような瞳が僕の瞳と重なる。
「だからカマをかけてみた。するとどうだ?君はわずかに目を見開いて息を呑んだ。その仕草は自身の思考を相手に読み取られた時に必ず現れるものだよ。違うかい?」
相変わらずの灯火の観察眼に微かな懐かしさを覚えながら、僕は小さく微笑んで両手を上げた。
「・・・相変わらず、さすがだな。なら、話は早い」
降参にも似た僕のポーズに、灯火は一瞬だが口元を結んで目を見開いて、再び笑みを浮かべた。
「相変わらずは君の方だよ。基本的に、自身の心理を看過された者が取る行動はほぼ次の二通りだ。自己防衛で守りに徹するため、黙秘とも取れる態度で相手へ警戒心を顕にするか、同じ理由で攻めに転ずるため、開き直って少しでも自身の精神の安定のために場を支配しようと試みるかだ。だが、ほぼというのは君のせいだ。君だけが例外で、そのせいで、確実性を失った。君だけが、看過された事を享受して、胸元を開く。それが、私にとっては異常に見えるよ。相変わらず、観測対象として君は興味深いね」
「・・・そうか?いや、相手が灯火だからだと思うけど」
灯火の説明に首を傾げながら、僕は小さく呟いた。さすがに見ず知らずの人間に同じように心理を見抜かれれば、彼女が語った二つの行動のどちらかを選んでいただろう。
「それならいいんだがな。見ず知らずの人間に同じ事をしていたら、狂っているとしか思えない」灯火は小さく笑みを零して、再び足を組んだ。「話を戻そう。なに、厄介事とは言え実害がなければ、数少ない友人からの依頼だ。金なんて取らないさ」
「え?金取るの?」
「あぁ。詳しく話した事はなかったね。私はそういう仕事で生計を立てている。精神に支障を
「・・・はぁ」
僕はぽかんと口を開け放した。合法非合法はさておき、そんな職業が成り立つのかが不思議だった。しかし再び周囲に視線を向ける。若くして工場を買い取り改築さえ出来たのだ。それなりのバッグボーンないし収入がないと実現出来ない事だろう。しかし、この件に関しては、あまり深くは踏み込まない方がいいだろうと、興味はあったがそれ以上の追求はしないことにした。知らぬが仏である。
「私の事はいい。むしろ知らない方が安全だからな」灯火はソファに身を預けて、組んだ膝の前で両手を組んだ。そして再び、口元に笑みを浮かべる。「さぁ、話してくれ。少しでも私の興味がそそられればいいんだが・・・」
「それは保証出来ないけど・・・」
僕は困った表情を浮かべて首を傾げながら、思考の整理を始める。なるべく客観的に、正確に伝えなければならない。
笑みを浮かべ射抜くように見つめる灯火に向かって、僕はゆっくりと言葉を紡いだ。
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