19
翌日、昼過ぎに目を覚ました僕は、灯火との約束は夕方でまだ充分早かったが、寄りたい所があったので身支度を整えて部屋を後にした。最寄り駅から電車に揺られ、目的地を目指す。
通勤で慣れ親しんだ駅で電車から降り歩を進めると、目の前には以前新見と訪れた横断歩道が見えた。その白線の上を、様々な人が行き交っている。私服、制服、スーツ姿。白線を踏む人々の外観は多種多様だ。
新見と訪れた際は、路面駐車もあったため長居は出来ず、かつ状況が初見だったために意識して注視する事は出来なかった。しかし今は一人。時間も灯火との約束までには余りある。僕は青信号にも関わらず横断歩道の前で足を止め、再び周囲を注意深く観察した。
行き交う人々の足元に視線を向ける。視界には再びタイヤ痕が映った。車道の停止位置の白線に目を向け、その周囲を観察する。やはり、前回と同様近くに小路は見られなかった。改めて、一つの可能性が易々と潰える。
停車していた車が何故ハンドルを切っていたのか、切らなければいけなかったのか、その理由を、僕は再びタイヤ痕に視線を移しながら考えた。しかし、その奇妙な行動に、明確な解答が見付からない。曲がるにしても、わざわざ停車している状態でハンドルを切るなんてことはない。切らなければいけなかった理由も、思い付けない。
歩行者用の信号が点滅を始めた。その電子音に顔を上げた僕は、横断歩道の中を進んでいる車椅子の女性を手助けし、赤に変わる前に渡りきった。
後ろ姿で顔だけを少し後方に向け会釈をした女性に軽く手を上げ、僕は再び道路に視線を向けた。こちらからは、件のガードレールが見て取れる。事故の凄惨さを思い知らせるかのように、ひしゃげたまま、未だに放置されていた。なるほど考えてみれば、ある意味その存在は事故防止の役に立っているのかもしれないと、とりとめのない事を考えた。
何か分かるかと来てみたが、思考が簡単に脱線してしまうほど、得られるものは限りなく少なかった。僕は小さな溜め息を吐いて、取り出した形態に目を落とす。軽い食事を済ませていけば、灯火との待ち合わせには丁度良さそうだ。
成果はなかったが、成果がなかった事が手段の一つを潰して他の可能性に集中出来る糧だと思う事にして、再びの青信号で僕は歩き出した。周囲の雑踏に紛れるように歩き出し、経路を思い出しながら、灯火の家へと向かう事にした。
(・・・?)
渡りきった途端、僕は横断歩道を振り返った。点滅を始めた信号に急かされ、スムーズに進んでいた人の波が急流のように動き出す。
微かな違和感に、僕は首を傾げた。しかしその違和感の正体に、僕は気付く事が出来なかった。
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