14
車を降りてすぐ、僕は空を仰いで目を細めた。真上に太陽があるため、容赦ない陽光に軽く手を
「路上駐車なので、あまり長居は出来ませんが」隣に並んだ新見が胸ポケットから取り出した手帳を開いた。「事故発生時刻は二十一時前後です。目撃者の証言によりますと、一ノ瀬さんは私達から見て左側から駅へ向けて信号を渡っていたそうです」
新見は親切にも証言から得た事故当時の状況を事細かく説明してくれた。警察には守秘義務というものがあるが大丈夫なのだろうか。当事者の場合は、例外なのだろうか。
「駅に向かっていくなら・・・」僕は記憶を辿るように再び天を仰いで目を細めたが、事故前後の記憶を思い出すことは出来なかった。「覚えてないですけど、多分帰る途中ですね」
「おそらく、そうだと思います」新見は小さく頷いてから、そっと指先を持ち上げた。指し示した方角に自然と僕は目を向ける。「あそこに見えるガードレールが、トラックに追突されて一ノ瀬さんを撥ねた後、軽自動車が突っ込んだ場所です」
「・・・うわ」
そのガードレールは、一目瞭然で事故の凄惨さを教えてくれた。地面に突き刺さったポール部分が一箇所だけ引きちぎられた様に地面から離れ、ガードレールはおよそ一メートルほど無残にひしゃげている。その表面には無数の傷が目立ち、軽自動車から剥げ落ちたであろう車体の塗料が、同じ白色でも見て取れた。これでは運転手も、ただでは済まない。車内での新見の言葉と目の前の悲惨な光景が、気持ち悪さを膨らませる。
「・・・大丈夫ですか?」口元を抑えて苦渋の表情を浮かべる僕に、新見は心配そうな表情を覗かせた。「あまり、見ない方が良いかもしれません」
「・・・そうですね」僕は気持ち悪さを振り払うように、小さなため息を吐いて視線を泳がせた。辺りを見渡すと、丁度青に変わったためか横断歩道を無数の人が行き交っている。ただ前を見て歩く人。スマホを見ながらふらふらとする人。ごく少数ではあるが、ガードレールに視線を向けて目を見開く人。様々だった。
そうやって感情を振り払おうと適当に辺りを見渡していると、僕は少しの違和感を覚えた。僕は一瞬だけもう一度ガードレールに視線を向ける。
「どうかしましたか?」
新見の言葉に、僕は彼女に視線を合わせた。違和感の正体は一体何なのだろう。再び横断歩道に視線を向けて、その違和感の疑問に辿り着く。
「聞いても良いですか?」
「はい。答えられる範囲なら」
新見の返答に、僕は小さく頷いて横断歩道の方を指差した。
「新見さんが話してくれた内容だと、軽自動車は停まっていたんですよね?そこにトラックが追突したって」僕は横断歩道を指し示していた指を、ゆっくりとひしゃげたガードレールの方に指し変える。そのガードレールは駅側の横断歩道の終わりの近くだった。「なのに何で、あそこに突っ込んだんですか?普通だったら、真っ直ぐ進みません?」
「・・・それが」
僕の疑問に、言い淀んだ新見は少しだけ眉間に皺を寄せて、手帳のページをゆっくりと捲った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます