12

 

あれから数日が過ぎた。


結論から言うと、情報社会の長所を駆使した結果、僕はこれといって有意義な情報を得ることは出来なかった。様々な言葉の羅列を幾度も繰り返したが、望むような解答には辿り着けなかった。


それ以上に、誰もが知っている夢について、これほど知らなかったものかと、調べれば調べるほど僕は痛感した。


そもそも「夢」という存在は、まだ正体が判明していないのである。誰もが無数の夢を見るというのに、科学的な研究が80年以上続いている今現在でさえ、その正体は完全には解明されていないのが現状だった。心理学や脳科学、神経科学など様々な見地から数多な仮設や諸説が浮上するけれど、「人がなぜ夢を見るのか?」この問いに関する明確な解答は、未だに導き出されてはいない。


しかし夢のメカニズムは解明が進んでいる。記憶に残る夢はレム睡眠中に見ている夢だとか、夢の内容は蓄積された記憶の処理や整理のためランダムに繋がってしまうのではないかとか、様々な分野の研究の上で、明るみになっている部分もある。


しかし、正体が分からない以上、このベクトルからのアプローチには何の意味もない。何十何百という研究者が長い時を経て解明出来ないというのに、僕が分かるわけもない。


僕は起こした体で何度も繰り返し携帯で検索し、堂々巡りにため息を吐く。その時、小さなノックの音が響いた。


「失礼します」


開いた扉から顔を覗かせたのは刑事の新見だった。凛とした立ち姿勢で閉まった扉の前に立ち尽くしている。


「あ、どうぞ」


僕は携帯をオフにして、彼女にパイプ椅子を促した。彼女は小さく頭を下げると、パイプ椅子を広げて綺麗な姿勢で腰を下ろした。


「相坂先生から、本日退院だとお聞きしていたので」


「あ、そうなんですか?わざわざすいません」


新見が差し出した小さな袋を受け取って、僕は小さく頭を下げた。


気付けばあの事故から、三週間が経過していた。僕の体も左腕以外は随分前から本調子なので、相坂が組んだ予定通りに本日の退院を迎えたのだ。数カ月は通院して左腕のリハビリを続けなければいけないが、それは仕方がない。


特に荷物も増えることはなく、荷造りは既に済ませていた。事故当時に持っていた鞄に全て収めることが出来たからだ。


「あの・・・」新見は凛とした姿勢のまま眉を上げて首を傾げた。「すぐ出るのであれば、良ければ送っていきましょうか?」


「え?良いんですか?」彼女の言葉に、僕は頷く。「助かります。ちょっと地元から離れているので、あまり道が分からなくて・・・」


「分かりました。車を回してきますので、手続きなどあれば済ませてもらって良いですか?」


「あ、あの・・・」立ち上がった新見を、僕の声が制した。彼女は中腰のまま首を傾げている。「寄りたい場所があるんですけど、良いですか?」


「構いませんが、どちらまでですか?」


「・・・事故現場に」

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