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僕は相坂に今まで起きた二つの夢の出来事を説明した。少しでも分かりやすく、客観を意識しながら。あれほど僕の頭を悩ませていたものでも、言葉にすると意外にも短い話で終わった。
色のない風景。見知らぬ景色。出逢った、知るはずのない女性。その夢が、続いた事。
話を聞き終えた相坂は珍しく眉をひそめ、口元に手を当てて考え込んでしまった。「考える人」に似ているなと僕は思いながら、彼が口を開くのを待った。
少しの静寂。それを破ったのは、唸るような相坂の言葉だった。
「んー・・・。それはどうにも、不思議ですね。・・・確認しますが、その女性も、風景も、本当に記憶にはないんですよね?」
僕が質問に頷くと、彼は眉をひそめたまま大きく首を傾げる。
「・・・専門ではないので私からははっきりとした事は何も言えませんが、そういった現象を聞いた事は今までありませんね」相坂は手帳らしき物を取り出すと、険しい表情のままペンを走らせた。「検査結果に異常は見当たりませんが、やはり気になってしまいますね。精神科の先生にも少し尋ねてみますよ」
僕が視線を移すと、手帳のページには僕の話が事細かく書かれていた。わずかに一部分内容のニュアンスが違うと感じられたのは、個人による微かな解釈の違いだろう。指摘するほどのものでもないので、僕は黙っていた。
「退院の手続きはそのまま進めますが、退院後にCTや脳波の検査などの予約を入れておきますね。少し通院は増えますが・・・」
「分かりました。ありがとうございます」
相坂の心配りに、僕は深々と頭を下げた。もし次回の検査で何かしらの異常が見受けられれば、こんなに頭を悩ませずに済む。しかし、再びの検査で何も異常がなかった場合、この現象をどう自分は処理しなければいけないだろうと、ふと思う。
相坂が部屋を後にしたので、僕はベッドの脇にあった携帯を手にした。わずかな操作で、お馴染みの検索エンジンを開く。
近年は完全な情報社会だ。意味があるものないもの些細なもの、膨大な情報量があちらこちらで飛び交っている。誰しもが小さな端末でそれにアクセス出来、欲しい情報や調べたい知識を手に入れられる状況だ。それが真実か虚実かはさておいて。
僕は頭を悩ませながら、言葉の整理と絞り込みに入った。今や膨大すぎて、たった一つの言葉では欲しい情報に辿り着かないからだ。精査して、予想して、ようやく近しい情報に触れる事が出来る。
僕は頭の中で様々な言葉をパズルのピースのように合わせては解きながら、何度も言葉を打ち込んでは、簡単に目を通して再び画面を戻す。その作業を、時間を忘れたようにし続けた。この現象の事実を、ただ単に知りたかったから。
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