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「良かった。同じ夢を見たから、もしかしたらまた会えるんじゃないかって思って」
僕が改めて彼女を認識すると、彼女はほっと胸を撫で下ろした。外見ではなかなか判断が付かないが、僕よりは少し下、二十代半ばぐらいだろうか。端正な顔立ちで、肩まで伸びた髪は色がないのではっきりとは言えないが、僕の瞳には黒く映らないので黒ではないことだけは分かる。
「どうかしましたか?」僕の物色するような瞳に彼女は瞳を合わせて首を傾げた。そして何かに思い付いたように、少しだけ目を見開く。「あっ!一ノ瀬さんから見て、私ってどう見えますか?」
彼女の問いに、僕は思考を巡らせる。どう見えると言うのは、容姿の事だろうか。一瞬の疑問に固まっていると、彼女はそれに気付いたようにあっと口元に手を当てる。
「あっ、すいません。私の外見がって意味じゃなくてですね。えっと、見た感じと言うか、見た目なんですけど」彼女は少し困ったような表情で首を傾げた。「・・・どう、映ってますか?」
彼女の言葉にようやく僕は真意を理解し、再び彼女をしっかりと視界に映して小さく頷いた。「・・・白黒というか、無彩色に見える。君も、景色も」
「あ、やっぱりそうなんですね。私もなんです」同調を得られたからなのか彼女は明るい表情を浮かべた後、ゆっくりと辺りを見渡した。僕も倣うように視線を巡らせる。どこに眼差しを送っても、色合いは存在しない。本来は燃えるように赤い鳥居でさえ、ほんのりと白く見える程度だ。
「・・・夢、ですよね」
「・・・現実じゃないなら、夢だと思う。確証はないけど」僕はゆっくりとその場にしゃがみこみながら、足元に敷き詰められた砂利をそっと撫でる。指先までもが意識の通りに動き、砂利を撫でた指先の皮はしっかりとその触感を伝えてくる。それらはまるで、現実のものとまったく同じものだった。「・・・一体、どうなってるんだろう」
僕は立ち上がって、再び目の前の女性に視線を向けた。突然の眼差しに首を傾げる彼女の容姿は、どんなに頭を捻っても記憶の中に存在しない。いや、会っていて思い出せないという可能性も捨てきれないが、それを言ってはきりがない。
女性に視線を向けたまま必死に記憶の糸を辿っていると、彼女は何かを思い出したかのように少しだけ目を見開き、突然姿勢を正した。急な仕草に、僕は思わず首を傾げる。
「多分、自己紹介がまだでしたよね。しようとしたら、目が覚めた気がしたので」彼女は姿勢を正したまま、はにかんだ笑顔で頬を掻いた。「私は、
突然の自己紹介に僕は少し面食らいながらも、再び瞬間的に思考を巡らす。春日井一葉という名前も、もちろん僕の記憶には
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