7
目が覚めると、僕は思わず目をみはった。目の前に現れた光景に、小さく息を呑む。
目の前に広がるモノクロの森の風景。
この景色を初めて見たのは、二週間前の事だった。当然、夢と判断した僕は、気になる事は色々とあったが頭の片隅に留める程度で病院の日々を過ごしていた。翌日は鮮明に覚えていたけれど、二、三日もすれば自然と気にする事もなくなり、今の今まで忘れていたような
しかし、改めて突き付けられて鮮明に記憶が
同じ夢を、見るものだろうか。僕はそんな疑問を頭の中に浮かべながら、瞬きをしたり、手足を動かしてみる。やはり、感覚は現実のそれに等しい。
辺りを見渡して、一本道に視界が止まる。確実だと断言出来る訳ではないけれど、ほぼ間違いなく、以前に見た景色と同じものだと僕は判断した。
驚きはあるものの、驚いていても意味はないので、僕は以前のように足を進めた。視界を過ぎ去る風景に、やはり有彩色は存在しない。黒と、灰と、白の無彩色だけだ。
ゆっくりと歩きながら、僕は二週間前の記憶を辿った。長く続く一本道を抜けた後、どこまでも続くような石段が目の前に
短いような、長いような時間が過ぎた時、一本道を抜けた僕の目の前にはやはり同じように石段が見上げるほどどこまでも続いていた。僕は確信を持ちながら、あの時と同じように一段一段登っていく。
以前と同じように慎重にとはいかないけれど、僕は辺りを簡単に見渡しながら石段を登っていった。初めてではない風景に、緊張が解けてしまっているらしい。
一歩一歩踏みしめながら、再び記憶を呼び覚ます。石段を抜けた風景を思い浮かべながら。そこに現れた人物を思い出しながら。
ようやく登り終えて、想像した通り視界が開ける。変わらず佇む大きな鳥居。その麓に点在する、腰掛けるには丁度いい大きな石。そこに、記憶に残る女性の姿が見えた。
そう。記憶に残る女性は、確かに、そこに居た。瞬間、記憶と風景の矛盾に、僕は気付いた。
記憶が正しければ、彼女は石に腰掛けながらも、僕に背を向けていたはずだ。近付いた僕の声に反応して、振り返ったはずだ。
しかし、視界の先に映る彼女は、僕の方に向かって大きな石に腰掛けていた。足元を見つめるように、
「・・・えっ?」
記憶との違いに、僕は思わず声を上げてしまった。その声に、彼女は跳ねるように顔を上げた。
「あっ!」
彼女は声を上げ、石から腰を上げた。視界からもたらされる情報を処理出来ずに固まっている僕に、彼女はゆっくりと近付いてくる。喉をさすり、足元を見つめながら。
僕はようやく思い至り、僕の目の前に辿り着いて顔を覗き込む女性にピントを合わせた。彼女は首を傾げながら、小さな笑みを浮かべる。
「・・・一ノ瀬、弦さんでしたよね?」
彼女の言葉に、困惑を隠しながら僕は小さく頷いた。
(同じ夢じゃ、ない。これは、・・・続き?)
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