第3話 月夜の訪問者
その後、鈴木は津軽の家に招かれた。
津軽の家は一階建ての簡素な木造建築だった。
鈴木は風呂を借りて汗を流し、持参した学校のジャージに着替える。
夕食は豆腐の味噌汁と白米、肉の炒め物だった。
特に鈴木は炒め物を気に入って「とても美味しいです!」と絶賛する。
料理を用意した津軽は満足そうに頷いていた。
夕食が終わり、鈴木は空き部屋を貸し与えられる。
津軽は「何かあったら言えよ」と言い残して自室に戻った。
押し入れの布団を出した鈴木は、村での出来事を振り返って微笑む。
「いい人ばかりだなぁ……」
鈴木は布団に寝転がって目を閉じた。
一日かけた移動による疲労感がどっと押し寄せてくる。
曖昧な意識の中、鈴木はふと疑問を覚えた。
(そういえば豊穣の儀はどうなったんだろう。夜になれば分かると言ってたけど)
部屋の外から物音がした。
何かが床を擦るような音だった。
眠りかけていた鈴木は、上体だけ起こして音の方角に注目する。
障子を隔てたその先に大きな影がいた。
一見すると静止しているが、実際はゆっくりと身じろぎしているようだった。
不安になった鈴木は困惑しながら声をかける。
「えっと……津軽さん?」
返事はない。
大きな影は音を立てて蠢くばかりだった。
そのうち影の形が変化し始める。
横に膨らんだかと思えば縦に伸び、さらには突起が生えてきたりする。
不気味な変化を目の当たりにした鈴木は「ひっ」と声を洩らしてしまった。
「…………」
しばらく影を観察していた鈴木は、意を決して布団から出る。
そして障子に手をかけると、ほんの僅かに開いて影の正体を確認しようとする。
障子の隙間から目が覗いていた。
じっとりとした眼差しで鈴木を凝視している。
「うわっ」
大声を上げた鈴木が尻もちをつく。
次の瞬間、大きな影が障子を薙ぎ倒して部屋に侵入してきた。
圧しかかられた鈴木は首筋に強烈な痛みを覚える。
(いたいいたい! なんで!?)
混乱する鈴木は影を引き剝がそうとするがびくともしない。
首の痛みはどんどん強まり、大量に出血しているのが分かった。
真夏だというのに身体が端から寒くなっていく。
朦朧とする鈴木は、くちゃくちゃという咀嚼音を耳にした。
大きな影が彼の首に密着して音を鳴らしている。
鈴木は「あ、食べられてるんだ」と理解した。
混乱と恐怖が一線を越えたせいでどこか他人事のようになっていた。
月明かりが影を照らし、その容姿を露わにする。
吐血する鈴木は、相手が極彩色の鱗に包まれていることを知った。
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