第4話 配信中の異変

 配信画面には顔の似た二人の男が映っていた。

 それぞれ赤いシャツと青いシャツを着て地面に座り込んでいる。

 赤いシャツの男が元気よく挨拶をした。


「どうも! 新世代の配信者! 赤青兄弟のレッドです!」


「ブルーでーす」


「今日も頑張るのでよろしくお願いします!」


 二人が頭を下げる。

 配信画面のコメント欄に視聴者のメッセージが表示されていく。

 視聴者数は百人を超えたところだった。


『待ってたー』


『たのしみ』


『山だね』


『今日は何するの?』


 レッドと名乗った男は不敵な笑みを浮かべる。

 彼は髪を撫でつけながら説明を始めた。


「今回は山奥にある謎の村の調査に来ました。結構人里から離れた場所ですね。立地的にめっちゃ怪しいので、たぶん何かありますよ」


「例えば?」


「そりゃ幽霊が出たりとか、呪いの儀式だよ。都市伝説にありがちでしょ」


「まあ確かに」


 相槌を打つ男、ブルーはスマートフォンを持ってレッドに向けた。

 アングルが変わってブルーが画面外へと消える。

 彼の役目はカメラマンらしい。

 立って歩き出したレッドを背後から追う。

 二人は薄暗い山の獣道を上がっていく。


『勝手に村を撮っていいの?』


『無許可は失礼』


『怒られて炎上かな』


 コメント欄では配信内容のモラルを指摘する声が多発していた。

 それを見たレッドは鬱陶しそうに弁解する。


「大丈夫ですよ、何か言われたら謝るんで。それよりすごい展開にするからちゃんと拡散してくださいね」


「チャンネル登録数もあと少しで十万人だしね」


「うんうん。皆で盛り上げていきましょう!」


 二人は楽しげに喋りながら歩く。

 コメント欄の非難はまったく気にしていない。

 日頃から危うい企画で再生数を稼ぐ彼らにとって、この程度はさしたる問題ではなかった。


 しばらく移動すると、前方に家屋が見えてきた。

 レッドは嬉しそうに頷くと、姿勢を低くして進む。

 画面のアングルが若干変わったのは、ブルーも屈んだためだろう。

 二人は慎重に進み、家屋をしっかりと映せる位置へ向かう。


 家屋のそばには数人の男が集まっていた。

 彼らは何か話し合っているが、スマートフォンが音声を拾うには遠すぎる。

 男達の手には包丁や斧、クワといった道具を握っていた。

 二人の存在にはまだ気付いていない。


「…………」


「…………」


 レッドがカメラ裏のブルーと顔を見合わせる。

 妙な沈黙と緊迫感が漂っていた。

 一分ほど思案した末、静かに興奮するレッドが提案する。


「ちょっとインタビューするか」


「雰囲気的にカメラ向けたら不味いかも」


「じゃあ隠し撮りかね」


「それがいいと思う」


 方針が決まったところで、ブルーがスマートフォンを地面に置いた。

 茂みに隠したのか、画面端には鬱蒼とした草が映り込んでいる。

 彼らの判断を知った視聴者は困惑した。


『え、マジでやるの』


『トラブルの予感……』


『また炎上かー』


『こいつらいつも炎上してる』


『迷惑系だよね』


 レッドとブルーが男達のもとへ歩いていく。

 二人がカメラ外にいなくなった後、レッドのヘラヘラとした声が聞こえてきた。


「すみませーん、ちょっとお話いいですかー? 聞きたいことがあるんですけど」


 レッドの声が唐突に途切れた。

 すぐさまブルーの怒鳴り声が響き渡る。


「は? おい嘘だろ何してんだよ!」


『どうした?』


『変な音がした』


『まさか……』


 視聴者がざわつく中、ブルーが再び配信画面に現れた。

 後ずさるブルーと対峙するのは、クワを持った男だった。

 男は悪意に満ちた恐ろしい笑みを湛えている。

 ブルーは恐怖で震える声で叫んだ。


「ふざけんな! こっち来んなよてめえッ!」


「お前も生贄じゃ」


 振り下ろされたクワがブルーの頭頂部に炸裂した。

 鈍い音を立てて先端がめり込み、ブルーは膝をついて倒れ込む。

 何度かクワをよじって引き抜いた後、男はブルーの身体を引きずっていく。

 それきり画面は山の風景を映すだけとなった。


『え……』


『言っちゃったけど』


『通報案件?』


『どうせヤラセ』


『そういうドッキリだよたぶん』


 いつまでたっても二人の配信者は戻ってこない。

 飽きていなくなる者もいたが、異変に釣られた野次馬によって視聴者数は急増していった。

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2024年12月3日 12:00
2024年12月3日 18:00
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岬ノ村の因習 結城からく @yuishilo

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