第3話 推しの子


「あの、ところでなんですが…。この冥土喫茶って、店員は全員で何人いるんでしょうか?」

「えっと、今日は私とリナちゃんで2人だけなんですけど、本当は4人いるんです」

「4人……」


「はい。明日はその2人も来てくれるので、ご主人様も…よかったらぜひ…♪ すっごく可愛いんですよ♪」



「…4人……?」



 瞬間 ノコギリが頭をよぎった。


 はて。何でノコギリが出てきたんだろうか。

あぁ………そうか。……あの本……『冥土喫茶』の冒頭に出てきたのは、4人のメイドだった。切断してたんだノコギリで右手右足左手左足を。



 いや、だから何だってんだよ……あんなことが起こるわけないし。カオリさんたちが俺にそんなことをするはずがない…。


 バカげた考えをやめた俺は、その後、リナにしばらく接客されて。

本人は接客を嫌がっていたが、案外、悪くはなかった。




 …翌日。すっかり癖になった俺は、大学の授業が終わった後、昨日と同じように冥土喫茶を訪れたのだった。すると――


「お帰りなさいませ~! ご主人様~♪」


 見知らぬ女の子に接客された。今にも飛び込んできそうな勢いだ。




 この子は……?

あ、あぁ。そうか。昨日は居なかった、3人目のメイドさんなのだな。


「カオリさんから話は聞いてるよ。また来てくれたんだね…♪」


 そう言われながら俺は案内される。…なんというか、快活で明るい子だなって感じだ。悪くない。


 やがて俺は席に着いて。彼女は、自己紹介をしてくれた。


「えっと、アタシはミキっていいます! JK、です♪ どうぞ…よろしくね~♪」



 JK… 女子高生か。確かに、若さに満ちあふれている。オーラが、ある。

……彼女の容姿を……改めて俺は、見つめていく……。


 柔和な笑顔。人懐っこい表情の可愛い女の子。茶髪の凛としたポニーテールが特徴的…だ…。ピンクのリボンで結んでる。小柄な体型…身長は150cmくらいで。薄褐色の肌をしていて。胸は、というと、あるとは思えなかった。Aカップくらいだろうか?



 …メイド服のスカート丈は結構ミニで…張りのある太ももや美脚が…覗いていて、もちろん目にすることができる。




 …あまり脚をじろじろ見るのはまずいよな…と思い、視線をずらし、つい店内を見渡す。


 そこで気づいた。そういえばお店にカオリさんの姿が見当たらない…と。



「…ん? どしたの?」

「あ、えっと…カオリさんがいないなと思って…」


 すると、ミキは答えてくれる。


「あー、今日はね、用事があってお休みらしいよ」

「そう…なのか」


 まあ、そうだよな。まさか、毎日出てるわけもないだろうから。


「…カオリさんのこと、気になるんだ?」

「え? あ、いや、偶然いないことに気づいただけっていうか」

「ホントかなぁ。…お姉さんみたいなタイプが…好きだったりして?」


 からかうような、ニヤニヤした表情で言われる。


「べ、別に俺は…」


 別に俺に年上属性はないが…。まぁ、それとは関係なく、カオリさんに昨日ドキっとさせられたのは確かだが…。



「むっ……」


 すると、今度は不機嫌な表情をミキにされてしまう。そして――


「ねぇ…ご主人様…っ」


 ミキは、座ってる俺の膝に…またがってきた…。



 一瞬、何が起こってるのか分からなかった。



「ホントはJKがいいんでしょ? ねぇ…いいって言ってよ…」



 またがって、自身の太ももをこすりつけて俺に投げかけてくる。



「お…おい……」



 俺は反応に困っていた。…あまりに積極的、というか、過激な接客ではないか??




 そのときだった。


「セクキャバかっての」


 ダウナー系な女の子の声が聞こえたかと思うと、その声の主は、ミキを後ろから引きはがしていった。


「ちょ、何すんのナツキ??」

「そりゃこっちの台詞だって…お客様に何やってんのよ…」


 そうしてミキをつかんでいた手を離したかと思うと、その子は俺のほうに向き直って、言った。


「ナツキ、と申します……よろしく……」

「あ、あぁ」


 とりあえず紹介されたので、俺は返事をした。



 …なんというか、おとなしそうな雰囲気の子。…クールビューティーとでも言えばいいんだろうか……


 初めて出会う子だ…。あ、そうか。この子が、つまり…最後の4人目のメイドということなのだな。俺は目の前にいるナツキの容姿を……改めて見た。



 …金髪のツインテールだ。髪の両側を黒色のリボンで結んでいる、美少女。…色白の、西洋人形のような顔。それゆえか、洋装であるメイド服はよくマッチしていた。身長は……157cmくらい。胸は、わりとあるように思う。Cカップ…だろうか。



 メイド服のスカート丈は4人の中では一番長く、膝丈まである。そこから覗かせる白ニーソも特徴的だった。年齢は、なんとなくだがミキと近い気がする。先ほどのざっくばらんなやり取りを見てても。



「さて…。ご主人様は、何かしたいこととかある…?」

「うーん…そうだな…」


 …メニュー表を開いて、サービス一覧を確認しようかとも思ったが――


「ナツキはどんなサービスをしてくれるんだ?」


 気づけば俺はそんなことを口にしていた。


「あたしが? …そうね……」


 そう言い終わるや否や、ナツキは座っている俺の背後へと回って…

そこから両腕を俺の首に回して……顔を寄せて静かに抱きついてきた。



 …またしても俺は、何が起こったのか分からなくなった…。

そして…



「……ふーっ…ふー……ん……っ。…ふー…っ……ん……。ふー……」


 俺の耳元で、息を吹きかけてきて。予想だにしないこそばゆさに、身体が思わずビクっとなった。


 そしてナツキは、ささやいた。



「ナツキの吐息…気持ちいいでしょ…?」



 ……今の発言って……。つまり、偶然、息が当たってしまったとかではなくて。もう…狙ってやったってことだよな…間違いなくもう…。 …さっきミキのことを制止してたわりには、この子も意外と積極的なのかもしれない。


 同じことを思ったのか、彼女も口を開いた。


「ナツキのやってることも、たいがいだけどね…」


 呆れたようなミキの視線。そのすねたようなミキの顔は、素直に可愛いと思った。





 こうして俺は…ここのお店、冥土喫茶のメイド4人全員と、ついに知り合ったことになった。



 そのとき本棚にある…『冥土喫茶』、読んだら精神がおかしくなるという本がなんとなく気になった。





 ……さて……家に帰って、ふと振り返るのだった。


「4人…どの子もそれぞれ魅力あってよかった…」


 …メイド喫茶のリピーターになる客の心境が分かった、かもしれない…。

けど、客によっては、もしかしたら強烈な推しが一人いるだけでも、通うモチベにはなるのかもしれない。俺にとっては、それは誰なんだろうか。カオリさんなのだろうか?と、適当にそんなことを考えた。




 そして翌日。俺は大学の授業が終わった後、やはり冥土喫茶を訪れていたのだった。


「お帰りなさいませ! ご主人様…♪ …今日も来ていただいて、本当に嬉しいです!」

「カオリさん」


 今日はお店に出ているのだな。


 …他3人は? 休みか、それか奥のキッチンにでもいるのだろうか…?



「今日は…どうされますか?」

「そうですね……じゃあ飲み物を……メニュー表にあるフルーツジュースお願いします!」

「かしこまりました♪」


 やがて飲み物は運ばれてきて、それを…口にする。


 うまい…。この店の特製なのだろうか。そう思いながら一息ついた、ときだった。



 奥の部屋から…メイド服を着たリナ、ミキ、ナツキが、ぞろぞろとこちらへとやってきた。あ、いたのだな。と思った直後、ドアはカオリさんに施錠され、カーテンもその3人によって閉められた。



「……え?」



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