第2話 お嫁さん
「恥ずかしいです…ご主人様……っ」
「ご、ごめん…」
そう言いながらも俺は、目の前のお姉さんにドキドキした。
…見ているだけで目の保養になった。役得ってやつか…。
こうして俺はカオリさんにご奉仕され、癒された。その最中のことだった。
「カオリさん…ちょっと来てくれる? 探したいものがあって…!」
部屋の奥から声が聞こえてくる。先ほどのリナの声だ。
「え、け、けど…」
俺のほうと、部屋の奥を見て、動揺するカオリさん。
そりゃそうか…あっちに行ってしまったら、俺の見ててくださいってお願いが……ってことだよな。
でも、そうはいっても、このままここに拘束してしまうのは申し訳ない!
「カオリさん。どうか行ってあげてください」
「ご主人様…っ」
カオリさんは改めてもう一度俺を見つめて、言った。
「ちょっと、お待ちくださいね……っ」
そうしてキッチンへ向かったカオリさんを俺は目で見送り…
それから、すぐに食事も終えて。
…一息ついて、ぼーっと部屋を見渡してると……何か、本棚があることに気づいた。
…どんな本があるんだろうかと軽い気持ちで近づいてみる。
「…いろいろあるな」
その中に、特に気になったものがあった。
『冥土喫茶』という本がある…
「…え。このお店も、確か冥土喫茶って名前だよな…」
店名と同じタイトルの本がある。ただの偶然か?
これは……パッと見た感じ、小説(?)だろうか。何の気なしに、取って読んだのだった。
―――――――――――――――
気づけば…俺の身体は押さえつけられ、その間に、四肢は切断された。
ノコギリを手にしたメイド4人が、俺の右手、右足、左手、左足をそれぞれ切断したのだった。
一体何が起こったのか、信じられない状況を目の当たりにしたようだ。
「オホホホホホホホホ!」
そんな音を聞きながら、俺は目を覚ます。
目覚まし時計に手を伸ばし……そしてボタンを押した。「ピピピ!」という音は鳴り止んだようだ。
静かになった部屋を俺は、ベッドから起きながら見渡す。
「…大学に行かないと…」
―――――――――――――――
そこまで読み終えて、俺は青ざめながら、つぶやいた。
「何だ…これ…」
読んでいて、気分のいいものではない。
何だよ?? 四肢の切断って??
「…というか、構成も意味分からん……何だこれは」
前後関係がおかしいと思った。
というのも、四肢が切断されてるわりには… 次の瞬間には、目覚まし時計で普通に目を覚ましている…?
“目覚まし時計に手を伸ばし……”という表現も見るに、主人公の大学生に、手はついていると考えられる。切断された翌日の出来事とは思えず……
…なんかおかしいぞこれ…
他にも…おかしなことはある
「何だこの叫び声…… オホホホホホホホホ!って」
おそらくは女性の声だと思われるけど……
誰かいたのか? 誰か女性が、朝起きたときに小説の主人公の部屋に、実はいたのか?? 幽霊かストーカー?
……やっぱりこの本の内容は意味が分からない。
「何を…してるんですか?」
突然の声にドキリとした。まるで…泥棒をしてるところを見つかったような感覚だ。
振り返ると、そこにはカオリさんがいた。
…おそらく、リナという子の探し物を手伝い終えて、たった今戻ってきたのだろう…
そうして本を読んでいた俺に…ばったり遭遇してしまったって感じ…か。
「…すみません…勝手に読んでしまって」
「あ、いえ…! それは構わないんですが…その本を読んでおられたのですね」
「……」
“その本”って言い方に、俺は含みを感じて。
「…この本、何かあるんですか?」
「…えっと…。…人の精神をおかしくするようで…」
「…は? 人の精神を?」
「はい…。オーナーがそう言ってました。
…元々はこの『冥土喫茶』って本、オーナーがどこからか拾ってきたものなんですよ。それでお店の本棚に飾るようにしたんです」
「…そうだったんですか。…あの、その話本当なんですか? 精神がおかしくなる…って……」
「…実際、本を読んだオーナーは。精神科に通うようになりました」
「……え?」
そんな、具体的すぎる実例を挙げられ、俺は面喰らってしまう。
精神科…?
「あ、でも。
「え、与太話…?」
「だって、実際に私も読んでみたんですけど、何にもならなかったですし♪」
「…カオリさん! 読んでみたんですか?!」
「はい…全部」
「全部…」
「でも、別に精神はおかしくも何ともならなかったです…。誇張ですよ、誇張♪」
「そうだったんですね」
ま、確かに。冷静に考えればそうであろう。
世の中にある、見たら精神がおかしくなるとされる本、絵、映画ってのは、たいていはただの誇張なのだと相場が決まっている…この『冥土喫茶』もその類いでしかないのだろう?
…それにしてもカオリさんはこれ、全部読んだのか…。そして俺は何の気なしに、軽い気持ちで尋ねていた。
「この本の結末って…どんな感じなんです?」
すると、カオリさんは ニヤニヤさせて言った。
「ハッピーエンドですよ?」
それは美しく、不気味な表情だった。
「…さ、この本のことはともかくとして。接客いたします。ご主人様♪」
こうして俺は、再び席へと戻ったのだった。直後、カオリさんに言われる。
「あの…ご主人様。…すみません…」
「え、どうしたんです??」
まさか謝られるとは思っておらず、俺は驚いたのだった。
「その…退屈でしょう…? 一人で接客していると…その…」
「そんな…!」
俺は大声を上げる。
だって、事実と違うから。カオリさんの接客にずっと俺はドキドキしっぱなしだったんだから…
「退屈だなんて全く思ったことないですよ! …俺…カオリさんの接客、本当に嬉しいんですから…」
「ご主人様…。そのお言葉、本当に嬉しいです。ありがとうございます…♪」
…いつまでも見ていたい笑顔だった。
「けれど…やっぱり…。ご主人様、少々お待ちください…!」
そう言ってカオリさんはキッチンへと走っていき…
「ねぇリナちゃん。接客をやってみない?」
「え、えー。人前は得意じゃないんですけどー??」
何やら声が聞こえる。俺はつい聞き耳をたててしまう。
「でもリナちゃん、すっごく可愛いのに…もったいないよ…!」
「そう言われてもー…」
「キッチンは私が交代で入るから、さ、行ってみよ! メイド服だってリナちゃんにきっと似合うんだから♪」
「そんなに? …いや、でもなー……はぁ、じゃあ、出てみます。…あれ、メイド服ってどこだっけ…」
…話の流れからするに、どうやら接客してくれるようだった。
そしてほどなくして、嬉しそうな表情のカオリさんとともに彼女は現れて。
「ご主人様ー…」
「……おぉ」
リナという子の見た目に、思わず声を漏らす。
確かに、カオリさんの言っていた通り、可愛かったから。アイドルグループにいそうとも思った。
髪色は黒でショート。といっても、ベリーショートというわけではなく、肩のあたりまで髪を伸ばしている…どちらかというとミディアムに近いショートヘアー。目は若干のツリ目ではあったが、それがかえってカッコよさを醸し出してるようにも思う。
身長は、カオリさんより少し低いくらい、158cmくらいだろうか。華奢な体型で胸は…有るとも無いとも。たぶんBカップくらいのように思う。
メイド服はカオリさんのと比べて少しだけ裾が長かったが、そうはいっても普通のメイド服と比べると露出があるようには思うので、少し下から覗けば簡単に太ももを視界に…いや、俺はそんなことはしないが…。
そうして、彼女は紹介を始めていく。
「えっとー…リナっていいます。…年齢も言わなきゃダメ? 20歳ね…」
「あ、20歳なんだな。俺と同じ歳だ」
「へー。そうなんだ」
そして今気づいたんだが、この子はメイドだけれど、ご主人様にタメ口で話すこともいとわないタイプのようだ。
「……ぁ、リナちゃん、年齢言っちゃったんだ?」
横にいたカオリさんが、困惑の声を出していた。
「そういうことなら、私もご主人様に言わないと不公平、かな…」
「…! カオリさん、教えてくれるんですか?? であれば聞きたいです」
「では…」
俺はカオリさんのことを知りたいと思い、耳を傾ける。
「えっと、23歳です」
おぉ……俺の感覚は当たっていたようだった。俺より少しだけ年上のお姉さんなんじゃないかという気はしていたんだ。包容力とかそういういろいろな観点からして…!
「…その、イヤ、ですよね?」
「…は? 何を言ってるんです??」
信じられない言葉をカオリさんから聞いた気がした。
「だって、その…自分より年上の人より、やっぱり同じ歳や年下の子が…」
「全然そんなことないですよ」
俺は全力で否定していた。もちろん、同じ歳や年下の子にご奉仕される甘美さも、それはそれで魅力的なのだろうとは思う。が。年上だからダメってことは絶対にない。
というか、それだってまた、十分なくらいに魅力的だって俺は思ってる…としか言いようがなかった。
「3歳差なら余裕で彼女にできますし……というか…お嫁さんにだって俺は……」
…何を言ってるんだと俺は思った。初対面の男にこんなことを言われてさぞ気持ち悪かったかもしれないと思い、自身の発言を後悔した。ところがカオリさんは…――
「嬉しい…です…ありがとうございます…っ」
そう…言ってくれたのだった。
たとえ今のがリップサービスだとしても。俺は嬉しく思ったのだった。
「二人ともラブラブですね…! じゃ、わたしはこれで」
「ま、待ってよリナちゃん!」
「あぁ…どさくさに紛れてキッチンに帰ろうとしたのに…」
どうやらリナの目論見は失敗したようだった。この子、そんなに接客するのが嫌なのか…。
まぁ、本人の感覚にどうこう言うつもりはないけれど、確かにカオリさんも言ってる通り可愛いのだから、人前に一切立たないというのはもったいないとは思った。
…そういえば。接客の人数という点で…ふと気になったことがあって。俺はカオリさんに、尋ねたのだった。
「あの、ところでなんですが…。この冥土喫茶って、店員は全員で何人いるんでしょうか?」
「えっと、今日は私とリナちゃんで2人だけなんですけど、本当は4人いるんです」
「4人……」
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