冥土 喫茶 ~日常には満足していますか? ご奉仕してくれる女性をお望みですか? 脚や腕を、裸で絡めてくる女の子はお好きですか?~

夢原幻作

第1話 始まり



 ……メイド4人が、俺の……






「オホホホホホホホホ!」



 そんな音を聞きながら、俺は目を覚ます。

目覚まし時計に手を伸ばし……そしてボタンを押した。「ピピピ!」という音は鳴り止んだようだ。



 静かになった部屋を俺は、ベッドから起きながら見渡す。



「…大学に行かないと…」



 朝の1限目の講義に間に合うよう、俺はテキストやノートをカバンに詰めようとする。そこで気づく。



「いや、今日って授業…なかったじゃん…」



 今日は、1コマも入れてない曜日で。…にもかかわらず俺は、目覚まし時計をセットしていたのだ…。



 俺は「…はぁ…」とため息をついて、もう一度仰向けになって寝ようとした。が、どうにも一度目が覚めてしまうと、眠りにつくことができず。なら、いっそ散歩でもしてくるかと、俺は外に出た。




 …俺の名前は館林たてばやし じゅん。大学生、20歳。銀座線の沿線区域に暮らしている。そこから大学へと普段、通っている。今日は行く必要はなかったから、大学のことはさておいて、とりあえず気ままに…俺は散歩してた…



 …そのうち歩道橋を渡り終え、しばらく…して……





 一軒の建物が目に入ってしまった。




「……冥土喫茶?」




 看板には、そう書いてある。



 …何だ、どういうことだ? メイドと冥土めいどを掛けてるお店、ってことか…?


 だとするともしかして、ハロウィン風のメイド喫茶ってところか? …せっかくだし…入ってみるか?と思った。


 いや、メイド喫茶とかに入るタイプでは本来ないのだが… どうにも“冥土”って単語が気になり、言わばお化け屋敷に入るような軽い感覚で、入店を決意した。



 俺は、ドアを開けて…中に入ろうと――






「え?」



 声が思わず出た。…薄暗い。店内が…よく見えなかったんだ。




 そのうち線香の匂いがした……葬式や仏壇にあるようなあの。…奥から漂っている。




 天井には動物らしき何かが吊るされてるのが見える。無数の動物が……

…まさか本物じゃないよな…剥製はくせいってやつか…? まるで黒魔術や占星術でも行われてるかのような雰囲気だ。





「おかえりなさいませ…ご主人様♪」




「!?」




 可愛らしい女性の声がいきなり聞こえ、俺はびっくりする。


 天井から視線を変えると、俺の横に…3メートル先に、人間がいたことに気づく。

…下半身が見えた。外からの太陽光に、下半身がわずかに照らされ、白黒を基調とした服……可愛らしいフリルのついたミニのスカートが見える。…メイド服か?


 黒のストッキングに…ガーターベルトも視界に入った。……太ももも含め、その絶対領域が…エロくて……




 ……が。部屋が薄暗かったせいで、上半身のほうがよく見えない…。…つまり顔が分からない。実体はそこにあるはずなのに、顔が見えないというのは、何か…。不気味なものを感じる。



 まさか首なしメイド、なわけはあるまい。

…顔が見たいと思った俺は、気づけば言葉を発していた。



「あの、明かりをつけてもらえませんか?」





「これはこれは…申し訳ありません……」



 申し訳なさから来る声のトーンを感じる。


 直後、コツコツ…と床を歩く足音が聞こえる。壁際のほうへと移動していったようだ。そして、パチッと音がした。部屋のスイッチを押したようである。



 瞬間、部屋が照らされる。天井の中央にある電灯が、明かりを灯したようである。

メイドさんの姿があらわになった。もちろん顔もはっきりと見えた。





 ……とても美人で端整な顔立ちで、思わず俺はドキっとした。


「とても…お綺麗な方ですね……」


 気づけば反射的に言葉が飛び出していた。メイドさんは反応してくれる。



「え、そんな…嬉しいです…ご主人様…」



 …黒髪ロングのおさげなのもまた可愛らしかった。左側だけにまとめてる一つ結び。肩のあたりで結んでいて、前側に垂らしてある。三つ編みじゃなく、まっすぐ下ろしてるふう。シュシュは赤地のものを使用していて。



 身長は160cmくらい。胸は…Dカップはありそうな。スラリと伸びた脚といい、とても均整の取れたプロポーションといえた。



「…ぅ……」


 思わず生唾を飲み込んでしまう。……いけない、このままマジマジと見つめていたらメイドさんに失礼なんじゃないかと思ってしまい、俺はつい全く違う方向へ視線を向けた。




 ……思わず向けた先は、天井だった……

そこには、鳥が……いや、鳥だけではなく、シカまで吊るされている。



 おそらく俺はこのとき、硬直していたのだと思う。

そうして俺の天井への視線に気づいたメイドさんが、言う。



「驚かれましたか?」

「…そりゃそうですよ。…まさか本物じゃないですよね?」

「まさか。剥製です。…オーナーが外国から買い取ったものだそうですよ」


「…なるほど」


 つまりオーナーの趣味というわけか?

まぁでも、このような内装は、もしかしたら“冥土”喫茶には合ってはいるのかもしれないが…。




 ……ところで、ふと気づいた。…線香の匂いは、いつのまにかしなくなっていた。






「…ご主人様」


 話しかけられる。


「…このまま立ち話もなんでしょうから、さ、お席へどうぞ…? 案内…いたしますね…」

「あぁ…よろしく頼む…」


 俺はそのメイドさんに惹かれるようにして席へと…向かい…やがて腰を落ち着ける。


「自己紹介を…させていただきます。私の名前は…カオリと申します」

「…カオリさん…」



 俺が、思わず“さん”付けで呼んだのは。

…カオリさんに、大人のお姉さん的な雰囲気を抱いたから。何でも包み込んでくれそうな…柔らかそうな…いろんな意味で…。穏やかで口調も落ち着いていた。



 何歳なんだろうか。2、3歳だけ歳上か、もしくは俺と同じ歳に感じて。



「そして、ご主人様…こちらが、メニュー表でございます」


 彼女から丁寧に渡されたそれを… 一通り眺めてみたのだった。様々な食事やサービスの価格が、表示されている。



「…財布に優しいですね」


 思わずそんな言葉が出た。

というのも俺の中でメイド喫茶というのは、大体は値段がすこぶる高いというイメージがあったからだ。


 そういうのと比べたら、ここの値段はそこまであるわけではなくて、十分許容範囲のように思ったんだ。


「当店ではリーズナブルな価格を目指しておりますので…♪」

「それはありがたいことです」


 元々は今日、散歩するつもりで外を出歩いていたため、ポケットに一応入れていた財布の中も、そこまであったわけじゃなかった。

けれどこれくらいの値段なら何とか足りそうではあるので、俺は安心していた。



「じゃあ…そうですね。オムライスを一つ、お願いします」


 適当に目についたメニューを頼むことにして。カオリさんは「はい…かしこまりました…♪」と述べ、部屋の奥のほうへ数歩進み、言う。



「リナちゃん…! オムライスを一つお願いね…!」

「はい」


 何やら奥から、別の女の子の声が聞こえる。顔は分からないが、どうやらリナという店員がいるっぽい。もしかして、ここのお店って二人で頑張ってるのか?






 それから…。カオリさんが水差しで、コップに水を注いでくれる。


「どうぞ…♪ ご主人様」


 さすがに、今のはお金は取らないのだな。

カオリさんの応対と声に癒され、無料でご奉仕されてお得な気分に。


 そうして…水を飲んでいたら、じきに、オムライスが届けられた。いい匂いがしてる…さっそく食べようとも思ったが、その前に…。



 俺は先ほどメニュー表で見たサービスのことを思い出し、注文してみることにした。



「あの…カオリさん」

「はい」

「ケチャップのサービスを…お願いします」

「! かしこまりました…!」


 そう言ってカオリさんはケチャップの容器を持ってくる…


「失礼しますね…」



 そして…オムライスの黄色い生地に、赤いケチャップがハート型に…綺麗に…描かれていく。




「ええっと…」



 手をハート型にするカオリさん。…一呼吸置き、彼女は言葉にしてくれる――





「お…おいしくなーれ……萌え、萌え…。…キュン…♪」





 とても恥ずかしそうに…顔を赤面させて……実は慣れていないのだろうか。

…なんだか…凄く可愛いって思った。…俺は自然と口を開いていく。



「………凄くいいです……」

「…ほ、本当ですか? …ありがとうございます……ご主人様……♪」



 …う……この嬉しそうな表情もたまらないな…






 こうして俺は、オムライスを食していく。

…とろけた卵焼きの生地、熱々のご飯、ミックスされたケチャップが旨味を増幅させて、心地よい気分に包まれる。接客してくれたカオリさんはもちろん、キッチンでこれを作ってくれたリナって子にも感謝したい。



 …俺はメイド喫茶というものをよく知らないが、これなら何度でも通いたくなる…かもしれない。




「…ご主人様。ご用があれば…なんなりと」


 食事中、カオリさんはそう静かに述べてくれる。


「そうですね…。いや、今は、見てるだけで大丈夫ですよ」

「見てるだけ、ですか」

「あ、そうだ…せっかくならテーブルの向かい側に…」

「向かい側…に?」

「そうしたらカオリさんがよく見えるから…」



 直後、俺はハッとした。何を勝手にサービスを要求してるんだ…と。申し訳ない気分になったのだった。


「あ、すみません、勝手なお願いをしてしまって…! 今のは――」


 撤回しようとしたときだった。


「それで、ご主人様がよろしければ…」


 カオリさんは俺のテーブルの向かい側に来て…立って…手を下腹部のあたりで組んで、俺のことを…優しく見つめてくれた。



 …俺は嬉しくなった。


「カオリさん…。あの、サービス料金はいくらですか?」

「そんな! これでお金を取るなんてことは、できません…!」



 ……つまり無償でやってくれるとのことだった。その心意気に触れて、より嬉しくなった。




 …口に入れながらも俺は、カオリさんのほうに目をやった。


 黒のストッキングに…ガーターベルト…ミニのスカート。…太もも…絶対領域に目が行ってしまう。膨らんだ胸…端整な顔立ち…前側に垂らしてある可愛げのあるおさげ。カオリさんのいろいろに目が奪われる。



 そのとき…俺の視線に勘づいたからなのか、気づけば彼女の頬は染まっていた。




「恥ずかしいです…ご主人様……っ」



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