《小さいな》

 私には蒼汰そうたという男の幼馴染がいる。

 家が隣で母同士仲が良いため昔から一緒だ。

 背の小さい私は昔から蒼汰にからかわれていた。

 幼稚園の頃はそんなに差は無かった。

 だが蒼汰は私の所に来るなり


朱莉あかりは小さいなー」


 と言ってくる。

 当時はそう言われると


「すぐ大きくなるもん!」


 と返していた。

 小学生の頃から徐々に差が出来始め中学になると一気に差が開いた。


「おっ、朱莉居たのか。お前小さいから見えなかったぜ」

「これから高くなるし」

「あははっ、成長ってもう中学3年だぜ? もう無理だろ」

「無理じゃないし!」


 しかし私の身長は伸びることは無かった。

 高校生になっても身長は伸びず蒼汰の身長は伸びて行った。


「朱莉ー! どこだー!?」

「……さっきからここに居るけど?」

「居たのか。背が小さいから気が付かなかった」

「蒼汰の身長少し分けて欲しいよ……」

「あげれるならな」


 蒼汰はそう言って笑った。

 とある休日、蒼汰と一緒に買い物へ行くことになった。

 昔から出かけるときはなぜか一緒だったから何とも思っていなかった。

 でも最近周りからは付き合っているのかと聞かれる。

 

「別に好きとか……」

「ん? どうした?」

「なんでもないっ」

「そう? お、電車来た――……って混みすぎだろ」


 休日の朝だけあって市街地方面へ行く電車は満員状態だった。


「でもこれ乗らないとセール遅れちゃう」

「しゃぁない、これに乗るか」


 私たちは電車に乗った。


「狭い……」


 背の小さい私にとってはかなり厳しい。

 人波に流されるというか溺れている気分。


「朱莉、大丈夫か?」

「背が小さいのが辛い」

「もっと背があればいいのにな。もう無理だけど」


 蒼汰はいつものように笑った。


「別に我慢するし」

「無理するなって。こっち来いよ」


 そういうと蒼汰は私と場所を入れ替え私はドア側に回った。

 蒼汰は手を壁に当て私のスペースを確保してくれた。


「これで多少はマシだろ?」

「あ、ありがとう……」


 この時初めて小さくてよかったと思ってしまった。

 高校を卒業して数年が経った。

 私は地元を出てとあるアパートで暮らしている。

 

「えーっと鍋は———、棚の中か……」


 私は背を伸ばし棚の戸を開けた。


「あった。届くかな?」


 指先で鍋を触っていると鍋の横にあった物が傾き倒れてきた。


「きゃっ! ……あれ?」

「ったくあぶねぇな。朱莉は小さいんだから無理せず俺に頼れよな」

「……ありがとう」

「大人になっても小さいな」


 蒼汰は笑いながら私の頭に手を乗せた。

 今では小さいのが嫌いではない自分が居た。

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