《ボクニ、サヨウナラ……。》

 僕は名門大学を卒業し有名企業に入社した。

 業績を上げ、30歳で結婚して子供作って楽しい家庭を築き―――……

 そう、今ではそんな夢のようなことあり得ないことに気がついた。


「何度言えば分かるんだ!?」


 オフィスに響く上司の声。これで何度目なのだろうか……?

 俺は上司に頭を下げた。


「すみません。今日中には―――」

「はぁ……もういいよ。他の人にやってもらうから。君はそこの資料整理しておいてくれ」

「……はい、分かりました」


 僕は大量に資料が入った段ボールを台車に乗せ資料室へ運んだ。


「(なにやっているんだ僕は……)」


 一人黙々と資料を整理した。

 整理が終わりオフィスに戻るとすでに明かりは消え誰もいなかった。


「(みんな帰っちゃったのかよ。……疲れたし帰るかな)」


 7時には会社に行き、帰りは22時を越えることが当たり前になってきていた。

 ついこの前入社したかと思ったらいつの間にか夏が過ぎ、秋も過ぎようとしていた。

 そんなある日、同じ大学の友人から電話が来た。


「もしもし? 久しぶり。元気だった?」


 懐かしい友人の声だった。

 なんだかホッとする。


「元気だよ。仕事も絶好調」


 僕は嘘をついた。友人に心配させたくはなかった。


「それはよかった。そんでさ、まだ先のことなんだけどクリスマスって予定ある?」

「ごめん。その日出勤なんだ」

「そっか~。それじゃ年末か年始に集まれたら集まろうぜ」

「分かった」

「それじゃまた連絡するよ」

「おう」


 友人は仕事が成功して早くもグループを仕切っているらしい。

 それと比べて僕は上司に怒られ、資料を整理し黙々とパソコン入力をやるだけだ。

 同じ毎日を繰り返していた。

 そんなある日、ついに僕は会社を無断欠席した。

 もちろん上司からは何度も着信があったが全て出なかった。

 その間、僕は貯まっていた貯金をいろいろな物に使った。

 美味い物を食い、高級な酒やワインを飲み、カラオケやゲームセンター行き、両親に高級な家具や最新の家電製品を買ってあげた。

 気が付くと貯金は4桁になっていた。

 季節は冬。世間はクリスマスだ。


「(そういえば今日はクリスマスかぁ。まぁ出掛けようにも金ないけど)」


 僕は一日中家にいた。

 日も落ち、窓を開けると肌を刺すような冷たい風が吹いている。


「(さてそろそろ行くか)」


 僕は車である場所へ向かった。

 街を離れ外灯も少ない道を走り着いたのは明かりも人気ひとけもない森だ。

 行き止まりに車を止めた。


「すげぇ星!」


 僕はつい声を出してしまった。

 無理もない車窓しゃそうから空を見ると天然プラネタリウムと言うべきだろう無数の星があるのだから。


「(こんな星空を独り占めって贅沢ぜいたくかもな)」


 僕はポケットから睡眠すいみんやくを取りだし飲んだ。

 車のシートを倒し横になっていると懐かしい記憶が頭の中をめぐった。


「(キャバクラで会ったあの子どうしてるかな。みんなと行ったカラオケ面白かったなぁ……うぅ……)」


 涙が溢れ出てくる。

 僕はそれをそでで拭いた。


「(ふぁぁ~……そろそろ寝るかな……とその前に)」


 僕は七輪しちりんに火を点けながく冷たい眠りについた。

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