《小さな希望》
高校を卒業した俺はバイトをしながらダラダラと暮らしている。
今は趣味も無く特にやりたいことも無い。
夢ってなんだろう?
仲の良かった友人はみんな夢を叶えるため必死に頑張っている。
だが俺は朝起きてバイトに行き帰ってきて寝るだけの毎日。
そんな平凡な毎日が嫌で俺は秋空の下、マンションから飛び降りた。
しかし敷地内の植栽や枯葉がクッションとなり一命を取り止めたが両足骨折のため入院することになった。
暇な入院生活を過ごしていると俺が寝ている病室に小学生くらいだろう女の子がやってきた。
他の人のお見舞いだろうか? そう思っていたが女の子は俺の所へやって来た。
「お兄ちゃんその足どうしたの?」
俺の両脚は包帯で巻かれ動かないように固定されている。
女の子は俺の足を不思議そうに見ていた。
「なんでもねぇよ。あっち行ってろ」
俺は女の子を追い返した。
それでも女の子は毎日俺のところに来るようになった。
その度に追い返していたがそれでも毎日やってくる。
どうやらお見舞いに来ているのではなくこの病院に入院しているみたいだ。
「お前は毎日なんで俺のところに来るんだ?」
俺が質問すると女の子は首に掛けてあるネームプレートを見せた。
「お前じゃないよ
ベッドから降りれない俺は毎日来る由美ちゃんと次第に話し始めた。
ずっと暇だったから話し相手が欲しくなったのだ。
「なぁ、由美ちゃんはなんで入院してるんだ? 元気そうじゃん」
「由美はね今度手術があるからここにいないとなの」
「手術? どこか悪いのか?」
「由美そういうことよくわからない」
由美ちゃんの両親とも知り合い少し話すようになってきた。
話によると由美ちゃんはもう半年近く入院しているらしい。なんでも心臓が悪いとか。
気が付くと俺は1日のほとんどを由美ちゃんとの会話で終わらせていた。
そんな毎日が続いた。
「お兄ちゃんは大きくなったら何になりたい?」
「……俺には夢なんて……無い」
小さい頃はいろいろなりたかったが現実は違ったから逃げたのだ。
その結果何もかも失ってしまった。
「そういう由美ちゃんは何かなりたいのか?」
「由美はね、お巡りさんになりたい」
「警察に? あんなの男がなりたいものだろ」
「お巡りさんはねぇかっこよくてみんなに優しい正義の味方なんだよ」
「それじゃ手術して元気にならないとな」
「うんっ!」
由美ちゃんはいつもニコニコしていて明日にでも退院できそうな感じだった。
だけどある日を境に由美ちゃんは来なくなった。
気になった俺は担当の看護婦さんに聞くことにした。
「あのいつも俺のところに来る由美ちゃんは?」
「先日手術のため別の病院に行きましたよ」
「どの病院かわかります?」
「どこだったかしら? あとで聞いたら伝えますね」
「お願いします」
俺の足も治り退院するまでリハビリをする毎日が続いた。
由美ちゃんが転院してから3ヶ月が経った。
退院した俺は真っ先に由美ちゃんの居るという病院へ向かった。
だがもうそこには由美ちゃんは居なかった。
俺は由美ちゃんにお礼を言おうと探した。
それから何ヵ月経ったのだろう?
季節が冬から春になった頃、ようやく俺は由美ちゃんがいる場所を知った。
桜が咲き暖かい風が吹く中、俺は花束を持ち由美ちゃんが居る場所へ向かった。
「由美ちゃん、久しぶり。あの時はありがとうな。俺、警察官になることにしたよ。だからしばらく忙しくて会えないけど絶対また会いに来るから。それじゃまたなっ」
俺は由美ちゃんのお墓に花を置きそっと手を合わせた。
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