《その場所で》

 私が高校2年の時のこと。

 その頃私は部活や勉強、友達関係、などがなかなか上手く行かず鬱になっていた。

 ある日、学校に行くと言いながらも無断欠席。

 向かった先は学校とは別方向にある岬。

 そこから独り海を眺めていた。


「(はぁ……いっそ楽になりたい)」


 そう思った私は鞄をベンチに置くとフェンスを乗り越えた。

 眼下には波が岩に激しくぶつかっている。


「(いざ飛び降りようとすると怖いなぁ……)」


 周りには人は居なく今しかない。 

 私は勇気を出して飛び降り勢いよく海に入った。


「(短い人生だった。さようならみんな……)」


 徐々に意識が薄れて視界もかすんで来たとき誰かが潜ってくるのが見えた。


「(だ……れ?)」


 私はそのまま気を失ってしまった。


「おい……君!」


 誰かが呼んでいる?

 私はゆっくり目を開けるとそこにはウエットスーツを着た20代くらいの男性がいた。


「ここは……?」

「気が付いたみたいだな」


 辺りを見渡すと岬の下にある小さな岩場の上だった


「私は一体なにを?」

「覚えてないのか? そこの岬から飛び降りたんだ」

「そう言えば……」

「何があったのか聞かせてもらえるか?」


 私はその男性に全てのことを話した。

 でも何故だろう?

 この人なら話してもいいと思ってしまった。

 

「つまり生きて行くのが辛いということか」

「はい……」

「俺は人生楽しかったぞ」

「楽し……かった?」


 その人はまるで今は楽しくないような言い方だった。

 でも辛そうな顔をしていない。


「俺さ、サーファーやってたんだ。これでもプロデビュー間近だったんだぞ」

「すごいですね。今はサーフィンやっていないんですか? その恰好サーフィンのですよね? テレビで観たことあります」

「今はやってない。というかもうやれないんだ」

「怪我とかですか?」

「んーっ、そういうことにしておいてくれ。話しを戻すけど辛いってなにがあったんだ?」

「私、志望校にぎりぎりで入学したんです。でも授業になかなかついて行けなくて勉強を頑張ると部活が手薄になっちゃって。そしたら友達との付き合いまで……」

「なるほど。それなら部活辞めちゃえば?」

「え?」

「それならいいだろ?」

「でも部活は強制で……」

「強制か……ん? その制服純誠じゅんせい高校か」

「そうですけど……?」

「それなら大丈夫だ。勉強するための学習部てきなものとか作っちゃえ」

「えっ? 作れるんですか?」

「条件満たせば作れるぞ」


 男性はなぜか高校のことを詳しかった。

 もしかしてOBなのかな?

 信じてみよう。


「頑張ってみます」

「よかった。それじゃ俺はもう行くかな」

「そうですね。それじゃ一緒に――——」

「それは無理だ……」

「無理? あっ、帰り道別方向とかですか?」

「そう言うわけじゃないんだ」

「どういう?」

「一つ頼み事を聞いてもらえないかな?」

「はい、助けてもらったお礼に何でも聞きますよ」

「それじゃあとで警察に電話してこの辺りを探してもらってほしいんだ」

「探す? 何か無くしたのなら私が探すの手伝いますよ」

「それは無理かもな。海の中だから」

「分かりました。鞄が岬のベンチにあるので電話してきます」

「よろしく頼むよ。それじゃ」

「はい」


 私は岩場から岬に続く道に出た。

 振り返るとそこには男性が居なくなっていた。

 しかしその時私はただ岩の影で見えなくなって居るだけかと思って居た。

 その後警察に電話してパトカーがやってきた。

 私は岩場まで警察官を連れて行ったがそこには男性の姿はなかった。


「それでその男性というのはどこに居るのかな?」

「さっきまでここに居たんですけど。赤いラインの入ったウエットスーツ着た……」


 すると警察官は何かを悟った。


「もしかして……」


 慌ててパトカーから何かを持ってきた。

 それは1枚の写真だった。


「もしかして君が言ってる人ってこの人じゃないの?」

「はい、そうです。この人知っているんですか?」

「知ってるも何も先日行方不明になって捜索願いが出されていたんだ」

「行方不明!?」

「その男性は何か言っていなかったか?」

「えーっと海の中を捜してほしいって言っていました」


 その後警察官が続々と岩場に集まり辺りの捜索が始まった。

 捜索開始から数時間後。

 男性は海の中で発見された。

 死後数日は経っていたらしい。

 私が見たのは自分を見つけてほしかった男性の霊なのだろうか?

 翌日私は再びあの岩場を訪れた。


「この前学習部を作ってみたら意外と同じような悩みを持った生徒が居て何とか部活を作ることが出来ました。最近テストの順位も上がって来たんですよ。これもあなたのお陰です。ありがとうございました」


 私は岩場近くにそっと花束を供えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る