《思いを告げ》
俺、
それと同時に父の転勤が決まり今は田舎の中学校に通っている。
この村では小学生と中学生が通う学校が1校のみ。しかも教室は1つだけだ。
そこに小学1年から中学3年まで全校生徒は10名ほどだ。
転校してきてから2ヶ月が経った頃。
「今日は転校生を紹介します」
教室の前にあるドアが開くと背は俺と同じくらいで髪は肩より少し上くらいの女子生徒が入って来た。
彼女の名前は
偶然にも苗字が同じだった。しかも学年は俺と同じ中学2年生だ。
親が海外に行ってしまう為祖父母の家で暮らす為ここに来たらしい。
同じ学年のため席は隣同士になった。
「えーっと、西原さん、こんにちは。俺は西原真人。俺もこの前転校してきたばかりなんだ。同じ2年生だしよろしく」
「こちらこそよろしくね。あと同じ苗字なんだし私の事は佳奈でいいよ」
同じ苗字のため俺は佳奈と呼ぶことになった。
正直最初は恥ずかしかったが今は普通に佳奈と呼んでいる。
もちろん佳奈は俺の事を真人と呼んでくる。
佳奈が転校してきた放課後。一緒に帰っていると佳奈は丘の上を指した。
「あの一番端に見える家が祖父母の家なんだ。昨日からそこに住んでるの」
「まじで!? 俺の家その隣なんだよ」
「なにそれ凄い偶然だね!」
佳奈が住む家は俺の家の隣だった。
それからほぼ毎日、佳奈の顔を見るようになった。
夏は一緒に川に行ったり夏祭りにも行った。
最初は気にしていなかったが日に日に佳奈の事が気になり始めた。
あっという間に時間は過ぎお互い中学3年生になった。
この村には高校は無く中学卒業後少し遠くにある街まで通学するしかない。
高校に行く前に俺は佳奈に告白しようと考えた。
でもいざ言うとなるとなかなか思うように口が動かない。
そんなこんなで1週間が過ぎたある日の放課後、俺は佳奈に呼び出されていた。
「どうした?」
「えっと……真人には先に伝えようと思って……」
「何を?」
「この前ね両親が海外から帰って来たの」
「おぉ、良かったじゃん!」
「それでねまた一緒に住むことになって……」
「えっ……? ってことは……」
「うん、また転校することになったの」
頭の中が真っ白になった。
言葉が出ない。
苦しい。
「真人、いままでありがとう。さようなら」
そう言うと佳奈は走って家へ帰って行った。
声からして泣くのを耐えていた事くらい俺でも分かった。
翌朝、学校で先生が皆に転校の事を告げた。
だが既にその場には佳奈は居なかった。
俺は気持ちを伝えられなかったのだ。
佳奈が居ない毎日は暇になり休みはほぼ部屋に籠っていた。
いつもなら佳奈が「どこかいこう」と言って勝手に俺の部屋に来る。
それが日常になっていた。
中学卒業後、俺は故郷の町に戻りアパートで一人暮らしをしながら高校へ通った。
そして今年の春、地元の高校を無事卒業。
就職する日まで何もない毎日を過ごしていた時の事だった。
静寂を切り裂くかのように部屋にインターホンの音が響き渡った。
「はーい、今行きます」
ネット注文は下覚えないからきっと郵便とかだろうと思いドアを開けた。
するとそこには髪の長い一人の女性が立っていた。
「えーっとなにか用ですか?」
「今度隣に引っ越してきた者です」
「そうですか。よろしくお願いします」
「ふふっ」
「どうしました?」
「私の事覚えていませんか?」
「えっ? ―――あっ、もしかして佳奈?」
「正解っ」
「一瞬誰かと思ったよ。髪も長くなってるし」
「そういう真人も変わったね。背もさらに高くなってるし」
「てかなんでここに? 隣に引っ越してきたって? なんで俺の部屋知ってるの?」
「ちょっと質問多すぎ。えっとねこの前祖父母の家に行った時真人の家行ったらこっちで独り暮らしをしているって聞いてね私もちょうどこの辺りでアパート探してたの。そうしたら隣の部屋が空いてたから入居決めちゃった」
「そうなんだ。ほんと昔から実行早いよな。時間あるなら少し上がっていくか?」
「あっ、そろそろ引っ越しの業者来ちゃうから行かないと」
俺はあの時言えなかったことを今度こそ言うとしていた。
「俺さ……」
「なに?」
言うとなるとまた思うように口が動かない……。
鼓動が早くなっている。
すると先に佳奈が口を開いた。
「あのね」
「なっ、なんだ?」
「あれから結構経ったけど私ね真人のことが大好きだよ」
「俺は……俺も佳奈の事が好きだ!」
「嬉しいっ」
あの時のように佳奈は笑顔を見せてくれた。
たった1年だけの付き合いだったけどこれからはもっと長い付き合いになるだろう。
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