《戻れるのなら》
俺には超絶美人! ……でもなく、超優等生! ……ってわけじゃない彼女の
付き合い始めた理由はただ告白されたからと言うものだ。
高校生の時は浮かれていたんだろう。
そんな俺は高校を卒業後、小さいアパートで独り暮らしを始めた。
美鈴はこの頃から世話をしに頻繁にやってくる。
「
「ん? どれどれ」
美鈴は家で料理を作ってはタッパーに入れて持って来ていた。
どうやらここ最近料理にハマっているみたいだ。
「どうかな?」
「まぁ、良いんじゃね?」
「よかった~」
美鈴はほっとしていた。
料理の腕はすごく褒めるほど美味いってわけでも、不味いってわけでもない。
また別の日には髪型を変えたらしくそれをわざわざ報告しにやってきた。
「この髪型どうかな?」
「良いと思うよ」
それほど大差がない。正直変えても変えなくても変わらない気がする。
俺は本音を隠して毎回返事だけをしていた。
そんなある日事件は起きた。
「なぁ、ここにあった紙しらね? 束ねてあったやつ」
「それならさっき古本とか雑誌と一緒に持って行ってもらったよ?」
「はぁ!? 何してくれてんだよ!」
「えっ?」
「ここにあった紙は今度仕事で使うやつだったんだぞ!」
「ご、ごめんなさい……」
「余計なことしやがって。毎回微妙な料理や些細な報告とかしてきやがっ―――あっ」
俺は絶対に言わないと誓っていた言葉をつい口に出してしまった。
一瞬時が止まったかのような静寂に包まれた。
「そ、そうだよね。今後はここ来るの少し控えるよ。今日のことは本当にごめんね。……私もう帰るね」
美鈴は泣くのを我慢しながら勢いよく部屋を飛び出し走って行った。
俺はすぐに追いかけようとしたが追いかけなかった。
「(さすがに言い過ぎたか……でも勝手にもの捨てるあいつも悪いし)」
頭の中がモヤモヤする。
美鈴が出ていき1時間が経とうとしていた。
「あー! もうっ!」
俺は美鈴に電話をした。
しばらくすると電話に出た。
「美鈴、さっきのことなんだが————」
「えーっとこのスマートフォンの持ち主は美鈴さんと言うのですか?」
「え? あんたは……?」
電話からは全く知らない男性の声だった。
「私、中央消防署救急隊の者ですがこのスマートフォンの持ち主である女性が先ほど事故に遭われまして———」
救急隊員話しによると美鈴はあの後信号がない交差点を飛び出し、走ってきた車とぶつかったらしい。
懸命な処置も間に合わずその日の晩、美鈴は天国へ旅立った。
数日後、俺は美鈴の母親の許可をもらい部屋に入れさせてもらった。
あの日から部屋の物には一切触ってないらしい。
部屋にはそれほど物はなく中央にあるテーブルには付箋が貼られた料理の本や料理番組で見ただろうレシピのメモなどが置かれていた。
「(努力していたんだな。それなのに俺は……)」
何気なく一冊の料理本を手に取ると何かが床に落ちた。
「なんだ?」
拾うとそれは小さいカギだった。
家の鍵じゃない洋風なデザインの物だ。
辺りを見渡すと棚の上段に洋風な木箱が置いてある。
デザインや形的にあの箱のカギだろう。
箱を手に取ってみると何も入っていなさそうなくらい軽い。
何も入ってないのかと思ったが中で何かが動いた。
気になり先ほど出て来た鍵を挿して回すと鍵が開いた。
箱を開けてみると数冊のノートが出てきた。
「これは日記か?」
ノートを開いてみるとそれは俺たちが付き合い始めた頃から書かれていた。
『○月○日 今日は昔から大好きだった
その日付は今からちょうど1年前だった。
1日も忘れることなく日々の事や俺のことが書かれていた。
そして最後の日付を開いた。
『○月○日 今日は髪型を変えてみました。和馬君は格好いいから私ももっと綺麗にならないと! なんてね。でも理想の女性になるように頑張るよ。だって来週は付き合ってから1周年! もうワクワクだよ』
奇しくも今日は美鈴と付き合って1年だった。
涙が零れてきた。
俺は日記を手に取り走って外に出た。
そして誰も居ない山に着くと声が枯れるまで泣き続けた。
何度も「ごめん」と謝り続けた。
しかし美鈴が戻ってくることは無い。
戻れるならまたあの頃に戻って料理を美味しいと言ってあげたい。
もっと可愛いと言ってあげたい。
なにより大好きだと言ってあげたかった。
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