《君と桜並木》
俺にはヒナと言う彼女がいる。
出会いは高校に入学した時の一目惚れだった。
付き合い始めたのは高校一年生の夏、友達の応援もあり告白したら両思いだったらしく即OKを貰った。。
夏休みは毎日のようにヒナと会い色々な場所へ出かけたりした。
しかしそんな幸せな日々は長くは続かなかった。
夏が終わり涼しくなってきた頃、ヒナは体調を崩すようになり学校も休むようになっていた。
しばらくしてヒナは大きな病院に入院することになったとヒナの母親から連絡があった。
ある日の放課後。俺はヒナの入院している病院に訪れていた。
「(確かヒナが入院している病院はここだな。あっ、病室聞き忘れたけど受付で何とかなるかな?)」
俺は病院に入り、受付でヒナが入院している病室を教えてもらいすぐに向かった。
「(えっと……301号室はここか)」
着いた部屋は個室だった。
ドアをノックすると中からヒナの「どうぞ」と言う声が聞こえた。
「お邪魔します」
病室に入るとヒナはベッドの上で身体を起こし本を読んでいた。
ベッドの周りには色々な医療器具が置いてある。
「ヒロ君久しぶり~」
「急に入院したって聞いたからビックリしたぞ。連絡しても既読にならねぇし」
「ごめんね。ここスマホ使えなくて。あっこれお母さんからヒロ君にって」
ヒナはベッド横にある引き出しから一枚の許可書の入った首掛けネームホルダーを手渡してきた。
「許可書?」
「これあるとね面会時間外でも入ることが出来るんだよ。流石に夜中はダメだけど。これでヒロ君といつでも会えるね」
思ったよりヒナは元気そうだったが最後にあった時より少し痩せて見えた。
きっと辛いはずなのにヒナは無理して笑顔を作った。
「さっき小耳に挟んだがここから有名な桜並木が見えるらしいぞ」
「そうなの? 楽しみだね~」
「それまでには元気になって一緒に見に行こうな」
「うんっ! 頑張って治すね」
しかしヒナの症状は良くなるどころか悪化しているように見えた。
冬になると徐々に医療器具も増え新年を迎えた頃には酸素マスクを着けるようになっていた。
「ヒナ起きてるか~?」
「ヒロ君いらっしゃい。外寒かったでしょ?」
「おぉ、めっちゃ寒いぞ。今晩辺り雪降りそうだな」
「私雪景色好き。町がキラキラして綺麗だよね」
「そうなのか? だったら今度雪積もったら屋上から写真撮ってきてやるよ。この前親に無理言って一眼レフカメラ買ってもらったからさ」
「楽しみにしてるね」
ヒナは嬉しそうに微笑んだ。
この日から俺は色々な写真を撮り現像してはヒナの所へ持って行った。
ベッド横にある棚には紅葉や雪景色など俺が撮ってきた写真が増えていった。
「最近少し暖かくなって高校の花壇にある花が綺麗に咲いたから写真撮ってきたぞ。ほら」
俺は寝たままのヒナに現像してきた色とりどりの花の写真を見せた。
それを見たヒナは嬉しそうにほほ笑んだ。
「……綺麗……だね」
「またいろんな写真撮って来てやるよ」
「うんっ。……ねぇヒロ君」
「どうした?」
「好きだよ」
「お、おい。何をいまさら。それじゃそろそろ帰るわ。お前もゆっくり休めよ」
「うん、また明日ね……」
その日以降病室へ行ってもヒナは寝ていることが増えて行った。
俺はなるべく時間があるときは両親から許可を貰い朝から晩まで一日病室にいる時もあった。
起きたときには学校であった面白い話しとかをたくさん話した。
季節が変わり春になった。
春休み初日の午前。俺は病室を訪れていた。
「今日さ、許可書無くて看護師さんに無理言って入れさせてもらったよ。ここから見る桜並木が今日明日がピークって聞いてさ」
俺は窓際に行き外を見た。
そこからの桜並木は想像以上の物だった。
暖かい春の日差しに照らされた桜は綺麗なピンク色をしている。
俺はカメラで窓から見える桜並木を撮影した。
「凄いなぁ。桜の道が出来ているみたいだ。一緒に見に行きたかったけど仕方ないよな……」
独り外を見ていると病室のドアをノックして看護師さんがやってきた。
「あの、そろろそお時間なので」
「はい、今行きます」
「お帰りの際は受付に声かけてください」
「分かりました」
看護師さんは先に病室を出て行った。
これ以上長居するのも申し訳ない。
「それじゃもう行くよ。今度花と桜並木の写真を持って行ってやるから。じゃぁなヒナ……」
俺は空き部屋になった301号室を出た。
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