クラスで無表情の女の子と友達になりました

lucky

プロローグ

中学を卒業し、高校に入学するまでの短い春休みの期間となる3月の下旬。


「ありがとね。光君」


増田光は子供の頃から利用している図書館のボランティアとして働いていた。


「何もすることがなくて、暇だったので」

「友達と遊びに行かないの?」

「そんなにいないので……。親は仕事でいないし、高校に入るまでに生活が乱れるのも嫌だったので」


期間としては3週間くらいで、卒業式から高校の入学式までの日をカウントし、普段より長めに感じる休みの中で、何もせずに家で過ごすよりも有益な形で過ごしたかった。


「受付は私たちがやるから。光君は本の整理を頼める?」

「わかりました」


職員から説明を聞き、僕は利用者からの返却された本を引き出しに戻していく。


(静かな場所が好きだから。こういう仕事は結構好きかも)


僕は人が多い場所よりは少ない場所を好み、商業施設よりは喫茶店のような静かな場所が好きなタイプで、最近の若い子にしては珍しいタイプだと言われる。


(隠キャ……ではないと思うんだけど、そう見られると思う部分が結構ある)


人望があり、自然と人が集まる明るい性格、世間では陽キャと呼ばれているタイプではないと思うし、日陰で1人でいるのを好む傾向があり、隠キャと呼ばれる人たちに近い部分がある。


(友達は入るし、それなりに楽しめてる)


友達の数としてはそこまで多くないけど、距離感を感じることはなく、嫌なことや楽しいことを共有できる友達はいる。


(異性はいないけど)


異性との付き合いは今までの人生で遭遇したことはあまりない。春から高校生になるけど、出会いがあるといいなぁ……。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎


困り事は職員に聞き、トラブルもなくボランティアの時間は経過していった。


(あの人、どうしたんだろ?)


本を手にしながら、受付の方を何度も見ては足を行こうとして止めている女性がいた。


(もしかして……知らない人と話せないタイプの人?)


困ったような顔を浮かべながら、受付の方を見ては不安そうな目をしている。


(歳としては僕と同じくらい。お節介かもしれないけど)


片目が隠れているプラチナシルバーの短髪、背丈としては140くらい。年頃としては中学生に見えたので、今年、卒業したなら同い年かもしれないし、僕はお節介かもと思いながら、女性に声をかけた。


「あの……もしかして、今日が初めての方ですか?」

「………」


女性は僕に話しかけられたことに対して驚きながらも首を縦に動かす。


「ここ、スマホで登録できるんですよ」


この図書館は貸出カードはスマホでの登録が可能。


『………お願いします』


女性は洋服のポケットからスマホを取り出すと、僕に差し出す。


(僕が操作していいってこと?)


QRコードでの登録になるので、個人の情報も見れちゃうんだけど……。


(一応、フィルター全開放しとこ……)


同性なら見ても気にならないけど、異性では話は別なので、今後遭遇することもないかもだけど見ないようにしよう。


「プライバシーの部分は見ないので」


女性は顔を紅潮させながらも、お願いしますとスマホを僕に預け、受付で説明しながら貸し出しカードを作成、初対面でも話せる職員に対応をお願いした。


『………ありがとう』


女性は本をカバンに入れてから、スマホで僕にお礼を言い、図書館を出ていった。


「光君。あの子、高校生みたいだよ」

「ですよね。年上じゃないといいんですけど」

「同年代だと話せるんだ」

「気を使わないので」


同年代でも多少は気を使うかもだけど、距離感としては近くでいられると思うから。

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