異世界転生システム
ラム
契約
俺の名はユウイチ。
冴えないニート生活を送るごく普通の男だ。
俺は今日も両親の仕送りでコンビニへ向かい、酒を買いに行く。
(はぁ、この世界はクソだ。あの大学だってなんで優秀な俺を落としたんだよ……)
(俺も金さえあればなぁ……)
「君、危ない!」
「え?」
瞬間、凄まじい衝撃と共に体が跳ね上がる。
(轢かれたのか……俺は死ぬのか……)
その時、宙を浮いている白い猫のようなマスコットが視界に入る。
「契約を結びませんか? そうすればあなたに薔薇色の人生が待っています」
何を言っているんだ、こいつは……幻覚か?
「あなたの余命は7秒です。早めにご決断ください」
あぁ、分かったよ、契約とやらを結んでやる。
「ありがとうございます。それでは契約成立です」
──
そして気がつくと広がるのは中世ヨーロッパ風の街並み。
「あの、ここは?」
「ここはコント・ラクト。それより君、りんごはいらないか?」
「りんご? くれるなら貰うが」
「何言ってんだ、150円だよ」
「円なのか……まあそれくらいなら持ち合わせあるか」
「毎度あり! それにしても兄ちゃん見慣れない格好だが旅人か? だったらギルド行くといいぜ」
「そうなのか? ありがとう」
ギルドとやらへ向かう。すると褐色の木で作られた、いかにも酒場、と言ったところに日本語でギルド、と記載されていた。
「たのもー」
「お、新人冒険者か? まずは仲間をここで見つけた方がいいぜ。あの子とかオススメだ」
そう言い指を指した先には金髪のエルフ。
目は見たことのないような淡い青で、あまりの美しさに圧倒される。
周りには他にも厳つい斧を背負った男や、見るからにインテリといった分厚い本を読んでいる男の他に、俺のような冴えない人もいたが、そのエルフに声をかけた。
「あ、あの、俺とパーティ組みませんか」
「3回回ってワン」
「は?」
「冗談よ。新人の手伝いを主にしてるの。よろしくね! 私はマチ」
「そうか、よろしくマチ。俺はユウイチ」
(やった、こんな美少女と冒険出来るのか……!)
「それじゃ簡単なクエストからやりましょうか。ゴブリン5体討伐辺りが簡単じゃないかしら」
「ゴブリン!? 俺、闘ったことなんてないぞ」
「ゴブリンは動きが鈍いから棒で叩けば簡単に倒せるわ。私がサポート魔法もかけるから」
「そ、そうか……」
その時、セミロングの茶髪のこれまた可愛らしい少女が歩み寄る。
「あの、回復魔法得意なので私も連れて行ってくれませんか?」
「ああ、いいとも。心強い」
「やった……! 私はツーカです」
「よろしくな、ツーカ!」
顔を赤めつつ、はにかむツーカ。
「マチ! ツーカ!」
その時、どこからか声が響いたが2人とも気付いていない様子だった。
しかし連れて行くのは少女2人。
内心不安に駆られながら、ゴブリン討伐のために深緑の森へ向かう。
やがて、ゴブリンらしい緑色の低身長の生物が目に入る。
(身長は1mってところか? これなら俺でもやれる……!)
俺はいいところを見せようと、ゴブリンに棒を振り下ろす。
それを頭に受けたゴブリンは気絶。しかしすぐに2体襲ってくる。
「旋風よ、あの者に加護を!」
マチが呪文を唱えると、俺の体は軽くなり、時間もゆっくり経過しているように見えた。
そしてすかさず俺は2体の腹部に棒を突き刺す。
残った2体は逃げようとするもすぐに追いつき、頭を叩いて5体討伐した。
「ユウイチ、やるじゃない!」
「凄い……回復魔法使うまでもなかった……」
「はは、ありがとう。これならもっと難しいクエストでも行けそうだな」
ギルドへ戻り、報酬を貰う。
それはやはり円であったが、大卒の初任給より高かった。
張り紙を見ていたマチが嬉しそうに指を指す。
「次はこのドラゴン討伐にしましょうよ!」
「ド、ドラゴン!?」
「ユウイチなら勝てるわよ!」
ツーカまで乗り気に語る。
「今度こそ私の回復魔法が役立ちますね!」
「あ、あぁ……」
そしてドラゴンの古巣へ向かう。
薄暗い洞窟をマチの魔法で仄かに照らし、慎重に進む。
「……あの赤いのがドラゴンか?」
「えぇ」
それは全長7mはありそうな巨大なドラゴン。
眠りに就いているようだが威圧感がひしひしと伝わる。
「ユウイチさん、寝込みを襲ってください!」
「私がまたサポートするわ!」
いくら仲間がいるとはいえ、無謀に感じた。
しかし期待を裏切るわけにはいかない。
俺は渾身の力でドラゴンの頭を叩いた。
ところがドラゴンは目を覚まし、反撃に火を吹く。
その灼熱の火をもろに浴びる。
「水の精よ、ユウイチさんを癒して!」
「業火よ、あの者に力を貸せ!」
ツーカの呪文で苦痛が和らぎ、マチの詠唱で力が湧く。
灼熱の業火がまるで熱いシャワーのようだ。
「うおおおお!!」
俺は再度渾身の力でドラゴンの頭を何度も叩く。
すると、やがてドラゴンは倒れた。
「流石ユウイチね! ドラゴンを倒すなんて……! 私が見込んだパートナーだけあるわね!」
「ユウイチさん、格好よかったです……! まるで勇者みたいでした!」
「はは、ありがとう」
証拠としてドラゴンの角を折り、ギルドへ帰ると、多額の報酬が貰えた。
その報酬でパーティを開く。
「ユウイチとならどんなクエストもこなせそうだわ!」
「私もユウイチさんに着いていきます!」
「ありがとう、マチ、ツーカ。俺たち3人なら無敵だ!」
そして俺とマチとツーカは同じベッドで眠りに就く。
左手にはマチ、右手にはツーカ。両手に花とはこのことか、と思いつつ眠りに就く。
――されますか
(ん、なんだ……?)
契約を更新されますか?
目覚めると、目の前には事故に遭った時に見かけた白いマスコット。
「更新、とはなんだ?」
「契約の更新です。お試し期間が本日で終了します」
「お試し期間? なんだそれは」
「本日が異世界転生体感システムの更新料の支払い期限です」
「体感システム……? よく分からんがいくらだ?」
「30,000,000円となります」
「……え?」
「お支払い頂けないのであれば異世界転生体感システムは終了しますが」
「そんなん払えるわけないだろ! ふざけるな、帰れ!」
「チッ、承知いたしました」
マスコットは露骨に機嫌を損ね去っていく。
「ユウイチ、更新しなかったの?」
「あぁマチ、どうやらこれからは一層クエストに……」
「あっそ」
すると、マチまで無愛想に去っていく。
「な、なんなんだ! ツーカ、君だけは……」
「……」
ツーカも無言で、振り返ることなく去って行った。
「そんな馬鹿な……」
ギルドへ行くも、もはや美少女はおろか、屈強な男もおらず、俺と似たような貧相な人々が集まっていた。
「なあ、マスター、どういうことなんだ! 更新料がどうとか……」
「ああ、この世界はお前みたいな人間に来てもらっていい気にさせ、その契約代金で成り立ってるんだよ。お前みたいなのがその辺にいるだろ」
「そんな……なんて世界だ……」
「仕事ならあるから安心してくれ。刺身にたんぽぽ乗せる仕事とかオススメだ」
「こんなの搾取じゃないか! なんとか元の世界に帰れないのか!?」
「まあ無理だろ……頑張って契約更新料貯めるんだな」
「そんなぁ……」
そんな時にマチとツーカが再び現れる。
「マチ! ツーカ!」
しかし2人とも俺に気付かない様子で男に話しかける。
「それにしてもエイジ、初クエストとは思えない活躍ぶりだったわ!」
「私のサポート必要なかったなんてすごい……!」
「でへへ……」
「あ、あぁ……」
何もかも偽りだらけの世界だが一つだけ確かなことがある。
それはこの世界はお金が絶対ということ。
そしてそれは、元の世界も大して変わらないのかもしれない、と膝をつきながら考えた……
異世界転生システム ラム @ram_25
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます