12月の24回目
「やっぱ春さんは流石ですね」
ボードゲーム会が無事に終わって、子どもたちが笑顔で帰っていったそのあと。誰もいなくなった会場となった会議室でホッと一息をついたその瞬間だった。無機質な空間にさっきまで笑顔があふれていたのがまるで夢みたいな空間。クリスマス間近っていうのもあって神秘的なものを感じる。
でも、としくんの言葉の意味がわからない。
私なにかしたっけ?
「あの子。楽しそうでしたよ」
あの子っていうのは多分、最後まで春から離れずに質問ばかりしてきたあの子のことだ。
「そうだね。でもまいっちゃたよ。最後まで。このゲームのお話は? このコマはなんなの? ずっとそんな感じ」
ゲームひとつひとつの意味を知りたがり、そのひとつひとつに意味があることに喜んでいた。
「でも春さんも楽しそうでした。それにちゃんとあんなに説明できるなんてやっぱ流石ですよ」
さっきの言葉はそういうことかと納得しつつも、理解はできない。なにか特別なことをしたつもりはない。いつも通りボードゲームと向き合って、そこに書かれている物語を紐解いただけだ。
「もしかして気づいてないんですか?」
「さっきからなんなんのよ」
もどかしいとしくんの物言いに我慢できない。だってさっきから何がいいたいのかわからないんだ。
「やっぱりかなわないですね。そんな春さんだからみんな楽しそうにする。春さんの周りには笑顔があふれる。それにあんなにすらすらボードゲームを物語にしちゃうなんて春さんにしかできません」
「なによそれ」
言われたところでさっぱりだ。
「わからないならそれが一番すごいんですけどね。春さんはそうやってるのが一番ですよ。だから無理しないでください」
無理なんてしてるつもりない。いや、確かに無理してる。無理しなきゃいけないタイミングだから。
「私もね。ちゃんとしなきゃいけないの。だからちょっとくらい無理させてほしいな。なんて……」
「そうですか……。春さんがそう言うならまあ。いいんですけど。つらいならちゃんと言ってくださいね。春さんが無理しなくてもいいようにしたいと思ってますから」
としくんの言葉の意味が一瞬わからなくてきょとんとする。
「あははっ。ははっ。としくんってばおかしい。でもありがとね。としくんのおかげでもっとがんばれるかも」
今はきっとちょっと無理しなきゃいけないんだ。多分もうちょっと。頑張ればなんとかなる。なんだかそんな気がした。
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