12月の23回目
「どうしたの?」
子どもの視線に合わせて身をかがめる。
「うん。どうして素材を集めなきゃいけないのかなって。思って」
突然の発言に驚いてしばらく言葉が出ない。
女の子で、歳は小学3年生とか4年生とかそのあたりに見える。髪をひとつに束ね、ポニーテールにしている。元気いっぱいな雰囲気。普段はゲームなんてしないのかもしれない。それは当然の疑問だと思う。わざわざ頭を使って、よくわからない紙に書かれた素材っていう名前だけの絵を数値化して、それを使ってポーションを作ってくれなんて理解できないよね。
でもこれはゲームだから。ポーションを作って得点にして勝利を目指さなくてはならない。なぜって言われてもそれが楽しさにつながるから。それは本質ではある。けれど、だからと言ってそのまま伝えたところでそれが理解してくれるとも思わない。
じゃあ。どうしよう。
春は自分がどうしてボードゲームにのめり込んで行ったのかを思い返す。それも一瞬のことだ。
女の子を待たせるわけにはいかない。そんなことをしたらどんどんとつまらないという感情が膨らんでしまう。
「これはごっこ遊びなの」
真っ先に出た言葉はそれだった。女の子は少し首をかしげて、続きを催促しているようにも見える。
「私たちはポーション屋さんの店長さんなの」
「ポーション屋さんって?」
「魔法の薬を作って売ってるのよ」
「ふーん」
「でね。お店が古くなったから新しくしようって、きれいにしたんだけど」
そこでちょっと間を作って女の子の興味を引こうとする。
「けど?」
しめしめ。こちらの思惑通り気になってきたみたいだ。
「お店をきれいにするのに夢中で肝心のポーションを作るのを忘れちゃったんだ」
「えっ。だめじゃん」
「そうだめなの。だからオープンまでの10日でたくさんポーションを作らなきゃいけないの。そのために素材が必要で。だからこの移動式錬金釜が必要なのよ」
シートに描かれている錬金釜を指さす。
「これ? 移動するの?」
「そう! 移動するんだ。でもね、困ったことに移動すると通った跡の素材をぼろぼろにしちゃうんだ」
「ぼろぼろに?」
「そう。だから工夫してたくさん素材を集められるように移動しなきゃならないんだ」
「えっと、そうするにはどうすればいいの?」
もうここまでくれば安心だろう。女の子はすっかりやる気になっている。詳しいルールを話しても聞いてくれそう。
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