12月の21回目
街の喧騒が慌ただしくなっている気がする。ずっと慌ただしいまま動き続けている春にとってはある程度の喧騒はありがたいことだった。
ほのかに聞こえるBGMはすべてクリスマスソング。歩く人々の足はどこか地面についていないような気にすらさせる。
『さあ、もう間もなく今年が終わります。みなさま今年のうちにやり残したことはやってしまいましょう』
そう流れてくるラジオの音声にビクッと体が反応する。いや、反応したのは心だ。
『今年の汚れは今年のうちに。ということでね。みなさん大掃除の予定は立っていますか?』
そうだろうとも。春に向けた言葉ではない。そんなのはわかっている。最初からわかっているのに……。
「はぁ。いやになっちゃうよ」
思わず空を見上げる。商店街のアーケードに阻まれて空は見えない。冬らしく雲の少ない青空が広がっているはずなのに見えない。それは春の心をさらに曇らせる。
ちゃんとやろうと決めて。ちゃんとやっている……のだけれど。結果が伴わない。
こんな時どうすればいいんだっけ。一度逃げた癖は身についてしまったのか。自分じゃない思考のルートに入ってしまっている。それはまるで迷路だ。
「ちゃんとゴールが見えたはずだったのにね」
誰に言うでもなく言葉が漏れる。まるで自分の中に閉じ込めておけなかったみたいに。
「なにぼーっとしてんの?」
そんな商店街で声を掛けてきたのは
「そっちこそ。また買ったの?」
「クリスマスにね。スケートの子たちと遊ぶ約束しちゃったんだ」
だから慌てて買ってきちゃった。
すでに教育者の顔をしていると思うのは大げさだろうか。去年からスケートリンクに出入りしている美鶴は知らないうちに教育者への道を選んでいた。そしてそれを下っときにはもう動き始めるには遅かったのかも。
「春だって明日、クリスマス会でしょ? 準備は順調?」
としくんとの約束は明日に迫っていた。来るだけでいいですよ。そう優しく言葉をかけてくれるけれどそれがつらい。報告できる結果がなにもないのがもっとつらい。
「まあね。クリスマス会はとしくんがちゃんとしてくれてるから大丈夫。私もなにするか知らないから楽しみなんだぁ」
久しぶりのボードゲーム。頭を空っぽにして遊びたいと思っている。それが現実逃避だともわかっている」
「ん。そっか。きっと春なら大丈夫。ちゃんと楽しめるよ。時間が迫ってるから先に行くね。じゃね」
アーケードの先に小さく見えるまあるい天井の建物。それがスケートリンク。そこにまっすぐに向かう美鶴の背中がとても大きく見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます