12月の15回目
「ねぇ。としくん。なんでそんなに元気なわけ?」
久しぶりのセカンドダイス。久しぶりのカウンター。久しぶりのコーヒー。
「就職活動始めたって聞いたんですけど。結局、毎週ここにきてません? 順調なんですか? 春さん」
なんか話をそらされた。そりゃもっともな話だけどさ。気持ちを切り替えたからすぐにうまくいってわけじゃないじゃん。そう言いたいのをぐっと堪える。こんな状況になっているのは全部自分が悪いって言うのはわかってる。そんな状況をとしくんに押し付けるわけにはいかない。ついこの前、あたっておいてなんだけども。
「順調。順調。この時期でもまだまだ新卒採用あるよ。じゃんじゃん申し込んでるよぉ」
申し込んでいるだけだ。この年末、採用が進むことなんてほとんどなくて。すべてと言っていいほどに年明けの予定しかない。正直焦り始めている。やけになっていたこの前までとは違う。現実が目の前にある。それも大きな壁として立ちはだかっているのだ。まあ、焦っても仕方ないのは頭では理解しているし、だいたい日曜に稼働している会社は少ない。そわそわして連絡を待つのも違う気がする。
だからと言って、セカンドダイスでくつろいでるのも違うと思うけど。
「順調ならいいんですけど。それなら今年のクリスマスはどうします?」
ちょっとだけドキッとする。
「子どもたち楽しみにしてるみたいですけど」
ドキッとした分の心臓の高鳴りを返して欲しい。
「ああ。行けるよっ!今年はちょっと早いんだよね?」
曜日の関係でクリスマス当日はボードゲームイベントをやっている場合じゃない。つまりはその前の日曜日と言うことになる。そんな時期に就職活動に動きもないので多分大丈夫。
「ええ。今年も、定番ゲームにしようとは思ってます。毎年恒例なのと、ちょっと変わり種をひとつとか。まだ、なににするか決めてないですが」
決めてないだけでちゃんと候補はあるんだろうなって顔をしているとしくんに成長を感じる。
最初は春がやっていたイベントだ。知り合いから頼まれて近くの子どもたちを集めてボードゲーム会をする。クリスマスにかこつけてはいるがボードゲーム前面押しの会だ。少しでもボードゲームを知ってほしいから始めた会だったのにまさかこんなに恒例企画になって、それを後輩であるとしくんが取り仕切っているのが不思議でならない。
「まあ。としくんに任せれば大丈夫でしょう。よろしくねっ。としくん」
ただ、それがちょっとだけ心の奥底で引っかかる。すべてが順調なはずなのに何かが気になってしょうがない。春はその正体が就職が決まっていないことだと、ひとり納得した。
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