12月の10回目
「なんで店長してるのに素直に認めてくれないのさ」
ちょっとだけ文句を口にしてみたもののなんとなくわかっている。具体的に言葉にできないけれど。
「もったいなのさ。多分だけどね。道を狭めることにつながりかねない」
でも続きの言葉は正直理解できなかった。何が言いたいのだろう。ボドゲカフェの店長で働くことがどうして道を狭めることにつながるというのだ。
「ずいぶんと不満そうだね」
そりゃそうだ。せっかく心を決めてここにやってきたのに、出鼻をくじかれた気分だ。
「まあ。ちょっとは大人の言うことを聞いておきなって。さっきもいったけど別にこういう店で働きたいとか、もっとさき。自分で店を持ちたいとかってことを反対してるわけじゃない。ただね社会人の最初に会社に入っておくっていうのは大事なことだとも思うんだよ」
店長の言葉に黙って耳を傾ける。
「一応ね。世の中の半分くらいの人はいったん社会人として会社に入って新人研修を受けて、マナーやら礼儀やらを叩き込まれる。それこそ大学までに教えてくれないことばっかり。そして荒波、まあそれも人によるんだけどそれなりに挫折もするし、成功も体験する。それって、途中からでもできるかもしれないけど。まわりに同じ年代の人たちがいて、同じようにもまれるのってその時期にしかできなくて、その時に感じたものっていうのも貴重なもんだから。その機会を逃してまで、この世界に足を踏み入れなくてもいいかなって思うんだよ」
ふむ。一理あるのかもしれない。けど、実感は湧かない。とうぜんだ。その世界を経験したことがないのだ。それに……。
「としくんが同じこと言っても店長はそう言うの?」
「はは、春ちゃんにはかなわないね。たしかにとしくんが言ってきたら止めないかもね」
ずるい。とは思わなかった。ひとつ年下のとしくんと三年くらい一緒にいるけど、どれだけ頑張っているかは知っている。大学卒業後の道も決めているみたいだ。ボードゲームで生きる。そう覚悟を決めている彼はきっと店長を説得させるだけの日々を過ごしてきたのだろう。それに比べて自分は……。
「そうだね。店長ありがとう。ちゃんと止めてくれて。私、もう一度就職活動頑張ってみる」
そう返事をしたけれど、ちょうどお客さんが入ってきて店長の言葉は聞けなかった。でも、その顔は笑ってた。春はそれが自分の言葉が理由だと思うことにした。
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