12月の9回目

「てんちょーっ!」

 セカンドダイスの扉を開けると扉に吊るされているペンギンの看板が揺れてガラス戸にぶつかって小気味よい音がする。ペンちゃんと言う愛称で呼ばれるマスコットキャラだ。

「あれ? 春ちゃん。こんな時間から珍しいね。と言うかだいぶ元気だね。ちょっと心配だったくらいへこんでたのに何かあった?」

「店長、直球過ぎない? まあ、確かにその通りなんだけどさ。それにしたってそんなまっすぐな感じで言われるとまた、へこむなぁ」

 互いに冗談だとわかっている会話のリズムが体になじんでいく。

 ああ。この感覚は久しぶりだ。これを忘れてたなんて、なにをしていたんだろうとすら思う。

「ほう。ほんとにいつもの春ちゃんだね。それで、そんな元気いっぱいに扉を開けてどうしたんだい?」

「えっと、まあとりあえずコーヒー頂戴」

 いきなり話を切り出すには店内にお客さんは数人いるし、注目を浴びたまま話すような内容でもない。

「毎度。カウンターへどうぞ」

 ボードゲームカフェなのにカウンターが用意されている不思議な場所。店長がコーヒーを極めるんだと、コーヒーを売りにしだしたときに改装したものだ。店長がお湯の準備をしてコーヒーを豆を挽いているのをぼんやりと眺める。

「ねえ。店長。どうすれば店長みたいになれるかな?」

 それが今日の本題であった。

「ん? どうしたんだい急に。僕みたいになりたいって、不思議なことを言い始めるじゃないか。まあ、でも最近の春ちゃんを見てれば言いたいことがわからないでもない」

 店長がお湯を粉になったコーヒーにお湯を注いですぐに止めた。蒸す時間が大事なのだといつか言っていたのを思いだす。

「それを踏まえてなんだけどね。とりあえずおススメはしないかな」

「えっ。そうなの?」

 思いがけない言葉に大きな声が出る。

「きっと、春ちゃんが思っているより大変なんだよ。安定もしないし、毎日金勘定していると気分も滅入るしね」

「じゃあ、なんで店長は店長なのさ」

「そりゃ、楽しいことがあるからだし、ボードゲームを遊んでいる姿を見るのが好きだから」

「それは私も一緒じゃん」

「うーん。一緒かなぁ。まあ、一緒なのかもしれないね。でも、まあ、いろんなことをチャレンジしてみて。それでもここに立ちたいって言うなら、止めはしないかな」

 店長が渦を書くようにお湯を流し込んでいる。透明なお湯が黒く染まっていくのを不思議そうに眺める。いや、不思議なのは店長の言葉だ。まったく言いたいことがわからない。

 

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