12月の7回目

「そもそも私って何したかったんだろうねって。思うんだ。最初は楽しければそれでいいって思ってたし。いくつか受けた面接でもだいたいそんなノリでさ。いつもまあ、いつもどおりってこと。でもそれじゃあ、ダメだって。思い知らされたんだ」

 美穂みほは春の話をだまったまま聞いている。時折うなずくが、肯定をしているようにも見えない。だからと言って否定もしない。

「多分なんだけどね。ちょっとこどもっぽく見えたのかなって。ちゃんと社会人としてやっていけるようにはみえなかったのかなって。そんなことばかり考えちゃって」

 美穂がそんなんだから春はとめどなく話し続ける。少しの沈黙もちょっと怖い。美穂に長考してほしくない。ボードゲームをしているときもそうなのだけれど、美穂が黙って考えているときが一番怖い。ものすごいスピードで思考を巡らせているように思えてならないのだ。

 実際、この状態の美穂は面白い選択をとることが多い。面白いというのは想像もできないってことだ。でもこの状況でのそれは思いがけないところから衝撃を与えらえる可能性だってあるってことで。ひやひやし続けている。

「考え出したらね。なにもかもうまくいかなくなってっちゃった。なにが正解かも見えてこなくて。空回りしたまま走り続けたらよくわからないくらいに絡まった気がする。最近はもう受けれる企業すらもなくなってきて、お手上げって感じ。こんな格好して頑張ってるふりしてるけど、全部見せかけ。それも自分自身に対しての見せかけ。私やってる。やってるから大丈夫だよって。言い聞かせてさ。それで何とか歩いてる」

 いけない。また目じりが熱くなってきた。これ以上、吐き出させないで欲しい。止めて欲しい。けど、美穂はきっとその想いも知ってなお、黙っているのだろうと思う。

「私ってダサいよね」

 そしてついに言葉が尽きた。沈黙が流れる。口火を切ろうとしても、もう無理だった。

「まっ。その通りだね」

 もう沈黙に耐えられなくなったころにそう言ったのは美穂だ。

「今の春は相当ダサい。私の知ってる春じゃないみたい」

 思ったよりも直球の言葉にズシンと殴られたように思ってしまう。

「私の知ってる春はもっと元気があっていつでも笑顔で、そんなくだらないことで悩みなんてしないやつよ。小さいことなんて気にも留めなくていつだって前ばかり見て、くよくよ悩んでる人がいたら笑って背中を押し出して、迷惑極まりない人間よ」

 黙っていた美穂の口から突然あふれ出す言葉を受け止めきれない。

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