12月の6回目
「あんたってホント現金よね」
「えっ?」
相変わらず細身の顔つきはうらやましいくらいに整っている。身体全体からしてそうだ。すらっとした手足から受ける印象は冷たさを感じる人もいるらしいが、それは美人オーラが出ているからだ。
頭もよくて、要領もいい。就職だって早めに決まっていた。けれど、どこにとか何をするとか、聞いてはいない。なんとなくだ。4人でるときだってそんな話をしたことはない。みんな何かに遠慮している。ほかのふたりの思惑は知らないけれど春としては聞いたら自信を失うってわかっていたからだ。
早いところ決まっていたらちゃんと聞けてたのかな。
去年の今頃は意気込んでいた。明るい未来に向かって突き進むと決めて、就職活動に精力的に動いていた。どこでもいいから有名な企業に入ろうとなんでかそう思っていた。
それが、見事にすべてに落ちた。
書類で落ちたこともあれば、面接をして即座に落とされることもあった。決して就職に有利に働く大学という訳でもないのはわかっていたが、それにしたってきつい日々だった。あまりにも落ちすぎて自信はなくなり活動内容も少なくなり、次第にみなと遊ぶ機会すら減っていった。
「え? じゃないわよ。人んちに上がり込んで遠慮なくお菓子の袋を開けてほおばり始めるし、ここはあなたの家じゃないのよ」
なんだか久しぶりに食欲が進んだのだ。きっと安心したからだ。なんで安心できたんだろ。それは不思議だ。
「いいじゃん。たくさんあるんだし。っていうかなんでこんなにため込んでのよ。誰かを呼ぶわけでもないのに」
「だからそれは私の分ってことにならない? 勝手に食べられるの嫌なんだけど」
「けち。落ち込んでいる私にちょっとくらい恵んでくれたってバチは当たらないよ」
「自分で言う人にあげるお菓子はありません」
封を開けていない袋をいくつか回収されてしまう。そして六畳一間の端に置かれた棚にしまわれてしまった。
「ま、ありがとね。おいしかった」
とりあえずは腹にものが入れられたので満足だ。
それにしても美穂ってこんな部屋に住んでたんだ。
あまりにもイメージと違う。セキュリティと言う言葉からかけ離れている建物。学生用の賃貸アパートと言われればその通りだけど、美穂が住んでいるとは思えない場所だ。雰囲気が違う。
「なによ。そんなにボロアパートが珍しい?」
「いやいやいや。そんなことはないんだけど。美穂とイメージが違うなって。もしかしてこのせいで家に入れてくれなかったの?」
「……まあね。こんな生活しているの知られたくないでしょ。特にあなたたちにはね」
はて。どういう意味だろう。春はピンとこなくて首をかしげていまう。
「そんな話はどうでもいいじゃない。そんなことより今はあなたのことでしょ。どうするのよ。これから」
美穂の遠慮ない言葉にうっと言葉に詰まる。どうしたらいいのか教えて欲しいくらいだよ。とはさすがに言えなかった。
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