12月の3回目

 単位は十分足りているので。大学の構内に入るのは久しぶりだ。すでに懐かしさすら覚えてしまっている。そんな風に考えて。急に自分が老けてしまった気がしてしまう。

 構内の方が人は多い。みんな寒いから外に出たくないんだな。でも知り合いはひとりもいない。見たことがない人たちばかりだ。きっと同期生は大学へ来る用事もないのだろう。理系大学なら卒論に追われているのだろうけれど、文系のそれも大して有名でないところであればそんなことに追われる理由もない。つまり、すでに就職先へと意識をシフトチェンジして、大学での用事は少なくなっているのだ。

 それは春の周りも同様で……。

 最近、付き合い悪いんだよなぁ。

 人のことを言えないはずだ。就職活動で忙しくしている春自身だって同様なのだけれど。ついつい不満を抱いてしまう。仕方ないって諦められるほど余裕はない。

 あーあ。ボードゲームしたいな。それもすかっとするやつ。できれば協力ゲームがいいな。みんなでワイワイしながら目標に向かって突き進みたい。それで負けたってきっとすっきりする。そういうやつ。

 スピリットアイランドの拡張でたのにやってないんだよなぁ。後輩たちが楽しそうにやっているのを横目に面接に行かなきゃいけなくて後ろ髪引かれながら出た。随分と苦戦していた気がするのだけれど結局、勝利できたのだろうか。

 あー。考えれば考えるほどやりたくなってくる。今からサークル室に行って遊んでしまおうか。でも、すっかり後輩たちの居場所になったあそこに行くのも居心地が悪い。それに、女子は春たちの世代が一番多くてだんだんと少なくなっていしまった。それに男子もゲーマーとして力が入っているというか、自分たちで作るとか言い出しているあたり春たちみたいなエンジョイ勢とは空気感も違う。

 別に線引きをしたいわけじゃないんだけどなぁ。

 だんだんと離れていった理由はやっぱり、そんなところになってしまう。代わりにセカンドダイスに入り浸る時間は増えたけれど、それもだんだんとカウンターで店長と話をするだけの時間の方が多くなっていった。

 みんないろんなことを始めてたもん。

 春たちは4人のグループで動くことがほとんどだったのに。ボードゲームから自然と遠ざかっていった。まあ、単純に飽きたのもある。ほかに興味が移るのも当然だ。それも美鶴みつるがフィギュアスケートを始めたあたりから加速した気がする。みんなの中で熱みたいなものが帯び始めた。そんな気がしている。

 千尋ちひろは精力的にボードゲームイベントなんかを企画して人を集めている。美鶴は教えることに興味が出たらしく、教師を目指すと言って日々勉強を始めた。美穂みほはよくわかんない。なんだか忙しそうにしている。風のうわさで起業するとか聞いたけれど。まさか。と思っている。さすがにそこまではしないよね。

 それに比べて私は。

 気づいたら誰もいない講義室へ入っていた。とりあえず椅子に腰かけて少し休憩。

 私は何がしたいんだろう。

 それが決まってないからきっとどこの企業にも引っかからないんだよな。

 机に突っ伏して右頬をピタッとつける。冷たさで頭を冷やそう。そう思っていた時だ。視界の端に光るものが目に入った。あれってもしかして。

 

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