第5話 ゴブリン狩り


「メニュー。ステータス」

LV:12

HP:50 / 350

MP:5

SP:350

ATK:40

DEF:5

SPD:70

LUCK:20

GLS:5 → 7


 ちくしょう。

 しこたまぶった叩かれた。一方的な指導。指導というかただの暴力。兄のアレクサンドルはただの正真正銘のクズキャラ。

 半殺しというやつだった。たちが悪いことに、出来の悪い弟のためとか何とか、それっぽいことを言うこと。

 まぁいい。近いうちに打ちのめすチャンスはあるから。


 今は夜。レベル上げに屋敷を抜け出す前に、ポーション(小)を飲む。3つ消費した。ゲームで飲んでいた頃より、苦いと感じる。ポーション(小)でHP100回復。


 ジェイコフの執事の服を着る。

 これを着るとなぜか、ジェイコフとして認識されるらしい便利アイテムだった。これで屋敷を抜け出しても特に何も言われない。

 ただ難点が、加齢臭がする。正直に言えば臭い。なぜこんな所にこだわるのか、AIの作る世界観は不思議だ。


 今の俺にとって、サイズの大きい執事服の袖とパンツの裾を巻いていく。

 ボコボコにされるついでに、武器庫からくすねてきた二刀の短剣を整備し、アイテムボックスにいれる。


 さて……レベル上げの時間だ。


……。


 都市や街は『神聖教会イルミナス』の大規模結界で守られている。

 『Code:Etherion』では、彼らと共に魔女の使徒と呼ばれる異形のモンスターを倒していくストーリーになるのだが、イルミナスの面々はなかなかに胡散臭うさんくさい。

 勇者側のストーリーでは一度も、イルミナスの面々と敵対することはなかったが。

 そもそも俺には自体が悪い奴には思えない。

 一人の魔女と共闘を目指そうと思っている。


 大規模結界に守られている安心感からか、門番は怠慢だ。特に夜は。魔物が活性化しても関係がないから。

 人がいないタイミングは熟知していた。

 結界の外へと向かう。


……。


 丁度ゴブリンの口に突っ込めるかどうかの大き目な石をいくつかアイテム欄に収納。


 最初の敵はゴブリン。

 茂みから、ファーストアタックを狙う。


 背後から赤く光っているゴブリンの首を掻っ切ると同時に、亜空間から石を取り出し、ゴブリンの喉奥へと突っ込む。

 叫び声は最小限に。もがき苦しむゴブリンを引きずり茂みに隠した。


 もう二刺しすると、ゴブリンは細かな格子状のポリゴンのエフェクトになって消えていく。


 LV12では一撃でまだ倒せない。

 ゴブリンの厄介さはその数。

 そしてエドガーの弱点は紙装甲。一度も死ぬわけにはいかないから慎重を期していく。HPの伸びは大きいとはいえ、DEFがあがることはない。無茶をすれば即死は逃れられないのだ。


 その後も一体ずつ各個撃破していく。

 ゴブリン狩りを繰り返していくと、一刺しで絶命するようになる。


 そろそろいいだろう。

 アレクサンドルに昼間にボコボコにされてストレスが溜まっていた。ゴブリンでストレス発散することにする。


 ゴブリン三体を見かけた。

 一体はホブゴブリン。奴だけ上等な鎧を着ている。体格は小さな大人くらいと、大して俺と変わらない。他のゴブリンは130cmほど。


「ぎゃぎゃ」

「ぎゃぎゃぎゃ」

「ぐぎゃっぐぎゃっ」


 奴らは俺を認めると、下品な笑みを浮かべた。数という概念はあるようで、三体と一人で数の優位からか安心しているようだ。煽るように俺を見て笑っている。


 距離は30mほど。野球の塁間と少し。


 間抜けな笑い顔だ。


 亜空間から投擲に手ごろな石を取り出す。


 『デスオブ』という鬼ごっこのゲームで鍛えた投擲技術が俺にはある。

 鬼を操り、武器を投げ、逃げるプレイヤーを狩っていくゲーム。

 掲示板ではチーターとして晒され、運営からも不正を疑われたほどに極めていた。


 ゲームは違っても電脳世界での身体の動かし方は変わらない。今のステータスでどう動かせば、どうなるかくらい身体が覚えている。


「ゲーマーを舐めるなよ」


 狂ったように繰り返した、投げるという行為。どのVRゲームでもまず練習するのは、物を投げる練習と決めている。現実世界と違って肩を痛めることはないから、


 飛び道具はどのゲームでも活かせるチート能力の一つだから。

 そして現実世界でも投石は脅威の一つだ。歴史が証明している。


 現実世界と違い、電脳世界ではイメージが大切だ。脳にある身体の動かすイメージとゲーム世界との誤差をなくしていく、訓練。投げるという行為ほど、誤差を埋めていく練習に最適なものはない。


 ゲームの世界に、持って生まれた現実の身体という才能と呼べる、不便な個体差はない。絶対的な数値で不確実性を排除できるステータスがすべてだ。

 だから正確な投擲とうてきは、練習と緻密ちみつな数字がモノを言う。


「おっ――」

 身体を全身全霊で引き絞り、助走をつけて、左手をゴブリンに向け、胸元に引き寄せ、その反動で右手を振り切り腰をねじる。

「おらぁあああ!」

 投石。暗闇に赤い光がほとばしった。

 会心の一撃の際に出るエフェクト。完璧なリリースの証拠。


 石は真ん中のゴブリンの頭部ごとエグり取り、ゴブリンはきらきらと消えていく。


「ギョ――」

「死んだ仲間の心配をしている余裕なんてないだろ」

 瞬時に間合いを詰め、接近。驚いているだろうゴブリンと目が合う。

 逆手に持った短剣を魔眼で見る赤いウィークポイントに沿って振るった。


 豆腐。いや水をぐ感覚。


 悲鳴はない。

 きれいな光となって消えていった。


 残ったのは似合わない大層な鎧を着たホブゴブリン。LVは俺より高く、ジェイコフよりは低い。

 距離をあけて、仕切り直し。


「こいよ。雑魚」

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