森の中

 その画面を見た瞬間兄貴も震え始めた。

 まあ震えだすよな。その反応しない方がおかしいもんな。

「弟、これって……」

「僕にもわからない」

 家族全員(母、を除く)に伝えるとみんな震え、少し考えた後怖がっていた。

 母が何者かによって誘拐された。(もしくは失踪したか)ただ、唯一の救いとして場所は教えてくれている。ここ――海からの帰りの道中にある森の中だ。

 もちろん僕らがするべきことはただ一つ――母を助けるだすこと。しかし誰も動けなかった。


 しばらくの沈黙の後、父が言葉を発した。

「みんな、とりあえず速く着替えて助けに行こう。森は帰り道にある」

「うん、そうだな……」

 みんなは急いで水着から着替えて、車に乗った。僕は誰もいない助手席を見つめていた。帰ってきてくれと願った。

 それから僕たちは、帰路の途中の森の中に入った。


「弟、板を探せばいいんだよな」

「兄貴、そうだよ」

「姉貴、なんか見つけたか?」

「特に」

 車の中から景色を見つめること十五分が経過した。そのとき、妹が興奮したように声をあげた。

「お兄ちゃん、あそこに板があるよ!」

「マジ? 本当だ。ありがとう妹」

 みんなが車から降りると、僕は板を持ち上げた。

 するとそこには、異様な空気をまとった階段が現れた。無限に地下に続いているように感じるそれは、まるで僕らをいざなっているようだった。

「っ……」

 みんな同じ反応をし、さっきまで会話が飛び交っていたのとは一転し、沈黙が流れた。

 一分くらいが経った頃だろうか、妹が衝撃的なことを言い放った。

「私、中入ってきていい? すぐ戻るから、お母さんがいるかもしれないし」

「やめとけ」

 僕は反動的に言っていた。

「ちゃんとした人を呼ぼう。警察とか」

「でも早くしないとお母さんの身の危険が……」

「確かに警察がここにすぐ来れるとは思いにくいからそれも一理ある、だが一人で行くのは危険だ」

「じゃあ私もついていくよ」

 そう言ったのは姉貴だった。

「すぐ戻ってくるから、少し中の様子を見るだけだから」

「姉貴がついていくなら……まだいいか……いや駄目に決まってん」

「大丈夫だから、信じて」

 僕が喋るのを遮るように強く、芯の通った声で伝えてきた。

「絶対にすぐ戻ってくるんだぞ」

 そう僕は強く言った。姉貴を信じてみることにした。

「分かってる」

 そう言って妹と姉貴の二人は闇の中に消えていった。


 一分後くらい、階段の方から足音が聞こえてきた。少しすると姉貴の顔が見えて安どのため息がこぼれる。よかった、と思った。しかしそんな安堵はすぐに覆された。

「様子はどうだった?」

「……階段がずっと続いてて、怖くなってきて、これをこのまま進んだら帰れなくなるかもって思って、戻ってきた」

「そうか。……で、妹はどこだ?」

 そう、いるはずの妹がいなかったのだ。しかし決めつけはよくないと思い、震える声で訊いてみた。まだ失踪と決まったわけではない。失踪ではないと信じたかった。

「えっ? 妹、どこ……?」

「まさか……」

「一緒に帰ろっかって言って、……うんって答えて、一緒に階段を上がってきたはずなのに……」

「また失踪?」

「もう誘拐といった方がいいかもな。二人も消えたらただの失踪じゃないだろう」

「でも妹から入ろうって言ってきたし、興味があってもっと奥に行ったのかもしれないし……」

「……」

 沈黙が流れる。

 その時だった、スマホの通知が届いたのは。


『森の中にある板。失踪。自分の意思じゃない。』


 妹からのメッセージだった。

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Re:行方不明の板の中 塔架 絵富 @238f_peng

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