第2話 図書館にいたお姉さん

「すみません、僕はただ――」

「あいにく参考書の類は置いていない。すまないね」

「いや、別にそういうわけでもなくて……」


 僕は女性を見上げる。

 長い白髪が腰まで緩やかに伸びており、頭の上ではカチューシャのように編み込まれている。瞳の色は、離れたところから見ても分かるくらい薄い。日本人離れした容姿だ。

 その女性はローブのような服を身にまとっており、片手には本が携えられている。


「そうか。では、キミに必要なものは何かな」


 女性の射抜くような目線に、思わずたじろぐ。興味本位で来ましたなんて、とても言える雰囲気ではなかった。


「ここは、図書館、なんですか」


 なんとか出た言葉がそれだった。この建物が一体なんなのか、それを知るために来たんだ。


「いかにも、ここは図書館だ。といっても、私設だがね」


 女性はあっさりと答えた。表札に書いてあるのだから、考えてみれば当たり前だ。


「じゃあ、本を借りたりできるってことですか」


「そうとも。それが図書館というものだからね」


 女性の表情はピクリとも変わらない。


「借りたい本があれば言ってくれたまえ。私はここの司書をやっている天與(あまぐみ)という者だ」


 そう言うと、天與さんは奥の机に戻っていく。僕はなんだか怖くなり、天與さんを引き留めるように質問した。


「ここの本って、全部天與さんが集めたんですか」

「全部ではないが、だいたいそうだね」


 とんちんかんな質問だったが、天與さんは真摯に答えてくれた。書棚に並んでいる本を見回すと、外国語で書かれた本が多いことに気づいた。見たこともない文字で書かれた本もある。


「いろんな国の言葉が分かるんですね」

「必要があれば、必要な分だけ学ぶよ」


 天與さんは奥の机に座って、少し前かがみになり、両方の袖口を重ねるようにして肘をついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る