第3話 病の検証
「にしても照はよく偶数病に気付いたね」
『偶数病』。照が持つ奇怪な性癖について、彼女らはそう呼ぶ事にしていた。
「これに関しては運が良かったよ。シーガルズのマチちゃんいるでしょ? 俺が高3の時、当時16歳のその子が誕生日のカウントダウン配信やってるのをYouTubeで観てたんだけど……」
「待って! その時点で大体分かった! 日付が変わった瞬間急激に冷めたって事でしょ?」
「その通り」
シーガルズとは、当時14歳から21歳の女子10人で構成されていたアイドルグループだ。何気にこの当事者二人が意気投合したきっかけでもある。
「まず、その当時ハマってたアイドルの年齢をあらかた書き並べてみたら、『数字はほぼバラバラだけどなんか偶数しかないな?』って気付いたんだ」
「うんうん」
「それでまずは、その時点で好きだったシーガルズのルイちゃん、当時18歳。あとは少し前に好きだったけど、その時点では違ったアヤちゃん15歳。この二人はそんなに待たずとも誕生日が来るし、実験にはうってつけだったんだよね」
「って事はそのアイドル二人とも、それぞれの誕生日をトリガーに好きの感情が沸いたり消えたりしたんだ?」
「そうだね。それでやっと、自分が長い間うすぼんやりと感じてた違和感の正体が掴めたって話!」
「そういう経緯だったんだねぇ。好きの感情が急に現れたり消えたり、か……」
「けど実際は偶数病もそんなに単純な話じゃなかったよ」
「ん、どういうこと?」
このおかしな病にもまだ裏事情が有るのかと、彩乃は興味深そうに尋ねた。
「それが奇数歳になって消えるのはいわゆるラブの感情だけみたいで。一方でライクの感情はそのままでしょ?だから『この娘は結構好き』『そこそこ好き』程度じゃ、誕生日の前後でも変化はそこまで認識できないんだよね」
「えっ!? じゃあ今の私にもライクの感情は残ってるってこと!?」
「当然!」
「だったらなおさら別れる必要なんて……あれ? ちょっと待って! じゃあ照は今の私に興奮できないって事!?」
「いや、それも全く問題ないよ! 男は好きじゃない女子にだっていくらでも欲情はできるしさ!」
「な~んだ、良かったぁ」
そう言ってはいたが、なんとなく彩乃の胸中は複雑だった。今はそれどころじゃないので黙ってはいたようだが……。
「それにしても『偶数歳しか好きになれない』ねぇ~」
「ああそうだ、シーガルズのカオルちゃん。当時21歳だったけど、そのとき何故か俺惚れてたんだよね」
「えっ!? ……あぁなるほど、サバ読んでるってこと?」
彩乃の質問に、照が半笑いで答える。
「おそらくはその通り。こんな感じで『奇数なのに惚れてる』ってパターン、なんとなくだけど20代の芸能人で3人くらい見つけたよ」
「へぇ~そんな事まで分かっちゃうのはスゴいね」
「と言っても分かるのは偶数か奇数かの二点だけだから、正直あまり役に立たないんだけどね」
二人はクスクスと笑い合う。それが落ち着いたのちに、彩乃がまた一つ質問を投げかけた。
「照はその偶数病について、もっと詳しく調べてみたりした?」
「当然ある程度調べはしたけど……それついて書かれた本やサイトは見つからなかった」
「だよね……」
「でもさ、唯一見つけた手掛かりとして『偶数歳の女性しか好きになれなくなった18歳の少年』ってネット記事が15年前に出てたんだよね」
「えぇっ!? 照と一緒じゃん!! それもっと早く言ってよ~」
「ゴメンゴメン! 割と最近になって見つけた記事でね」
照はスマホを取り出し、少しの間操作したのち彩乃に画面を見せる。スマホに表示されているのは当然例のネット記事だ。
しかしその記事のボリューム自体はかなり少なく、そのせいか彩乃もすぐに読み終えてしまったようで……。
「思ったよりあっさりしてるね」
「偶数病について紹介して、軽く本人のインタビュー載っけただけ。参考になるような情報は無いよ」
「でも一応、名前と住んでる大まかな地域は書いてあるね。照はこの人、今どうしてるかって分かってる?」
「それが……その人に関して他はさっぱり」
「実名のアカウントとかも出てこない? Facebookみたいな」
「うん……。そのうち、その人が住んでた地域に行って聞き込みとかもするつもりだったけど」
「それしか無いのかなぁ、もっと良い手段がありそうな気もするけど……。まあ一応私のほうでも一度詳しく調べてみるから、現地調査はその後にね!」
「分かった、お願いするよ!」
二人がそう約束した日から、丸二日後。例の偶数病にかかった同士のSNSアカウントが、彩乃によって発見される事となった。
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