第2話 イーブンな彼
『実は俺、年齢が偶数の女の子しか好きになれない体質なんだ』
その言葉を聞いたとたん、しばらく動けなくなってしまった
「そんな馬鹿げた事あるわけないでしょ真面目に話して!」
の一言が出そうになったが、それを持ち前の根性で咄嗟に飲み込んでいたのだ。真面目に聞くと宣言してしまった手前、そのような発言はできない。
「……一応聞くけどジョークとかドッキリとかじゃないよね?」
「違う! ……まあ自分でも何言ってんだって感じだし、信じてもらえなくても無理はないと思ってる」
ひたすら申し訳なさそうな表情で語る
照の告白を受け、彩乃はしばし考えこむ。
(言われてみれば確かに、それらしい兆候はあったかも。照が強く推していたアイドルもいつの間にか興味を失くしていた事があったし、彼の古い友人も『アイツ昔からアイドル好きなんだけど、推したり冷めたりをあちこちで一生繰り返してて意味が分からん』的な事を言っていた記憶がある)
「その症状っていつから?」
「物心ついてからずっとだよ!偶数歳が好きってハッキリ自覚したのは高3の時だけど。」
「じゃあ私達の場合も……私が19歳になった瞬間好きじゃなくなったって事だよね?」
「うっ……ゴメン」
そう言うと照は彩乃に向かって深く頭を下げる。彼は続けて、自身が持つ特殊な体質について説明を付け加えた。
まず現時点では彩乃の事はどうしても好きになれない事について。この次に彩乃を好きになるには20歳の誕生日まで待たなければならない事について。そして、自分達が付き合う限り、今後はこの流れが一生ついて回る事について。
「おかしいよな、どんなに好きになってもその気持ちが1年続く事が無いなんて。しかもそこから1年経てば元通り。ずっとその繰り返しなんだよ……」
声色から悔しさをにじみ出しながらも、照は続ける。
「彩乃もこんなおかしな性癖を持ったヤツに振り回されるよりは、さっさと別のまともな男に乗り換えたほうが間違いなくいい。今日はそう言いに来たんだ」
「けど付き合ってって言い出したのは私のほうだし! それに付き合い始めの頃は間違いなく私のこと好きでいてくれたんだよね?」
「もちろん! この体質で間違いなく迷惑かける事は分かってたけど、どうしても好きの感情を我慢できなくて! それにもしかしたら、この性癖は片思いのクラスメイトや画面の向こうのアイドルとかにしか効かなくて、本物の恋人同士の場合は関係ないんじゃないかって根拠のない期待もあった。まあ今となっては都合のいい願望なんだけど……」
照の訴えを聞いて、彩乃は状況を整理するため再び考え込む。
(まず現時点で私は照のことが好きだし、別れるなんて考えられない。けど照と付き合う限り私が奇数歳の間、その好きの思いは一方通行になってしまう。改めて考えると、確かに相当やっかいな問題ではある。しかし……)
「そんなの決まってる。そんなおかしな体質、受け止められるのなんて私しかいないじゃん!」
彩乃はそう勢いよく吐き捨てた。現在置かれている状況について少しばかり検討していた彼女だったが、別れようなどという発想は毛ほども浮かんでこなかったようだ。
「本当!? いや待って! よく考え直した方がいい!」
その後も早まらないよう再三に渡って警告してきた照だったが、彩乃の心はもう決まっていた。私は、私達はこのおかしな病気に立ち向かって行くと、改めてそう強い口調で彼女は宣言した。
「そこまで言うなら分かった……。ありがとう、本当に……!」
目から大粒の涙を流しながらそう告げる照。その直後、彩乃も同様に泣き始めた。
これにより、不思議そうに見つめる周囲の視線がまた彩乃のテーブルへと複数集まったが、もう二人は意に介していなかった。
こうして彩乃はこれからも苦楽を共にしていく事を、目の前に
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