XXしか愛せない男

甲斐アンクル

第1話 予想外の告白

「ぜっっったい他に好きな人ができたんだ!!!」

 とある昼下がり。大学内カフェテリアの片隅にて、親友に向かいそうぼやくのは小島こじま 彩乃あやの。彼女は2ヶ月ほど前に19の誕生日を迎えたばかりになる、A大学の1年生だ。

「え?でも彩乃の彼氏、前はあんたにデレッデレじゃなかった? 学内でも二人して遠慮なしにイチャつきまくるしでちょっと引いたもん」

「それがおかしいの! 聞いて!!!」

 彩乃はこれまでの二人の関係を振り返る意味合いも込めて、事の顛末てんまつを親友へと掻いつまんで説明し始めた。


 彩乃とその彼氏・上村うえむら てるが交際を始めたのは今から10ヶ月ほど前。彩乃の熱烈なアプローチに照がようやく折れる形で交際を始めたものの、いざ付き合い始めると向こうからの好意アピールも相当なものだったようで。


「土日に予定が無かったら必ずデート、平日もほとんど毎日声が聞きたいって電話かけてくるんだっけ?」

「そうなの、それが少し前からおかしいのよ! 平日にはほとんど電話かけてこなくなったし、課題が忙しいからってデートの回数も思いっきり減っちゃったし!」

「でもそれは本当に課題が忙しくなったからじゃなくて?」

「だと思って照と同じ学部の子に聞いてみたの! そしたら今はそこまで大変な時期じゃないって!」

「あ~それはちょっと怪しいかもね」

「でしょ! それになんたって一緒にいるときのテンションがあからさまに違うもん! 前までは初孫に対するおじいちゃんみたいなテンションだったのが、今は庭の鯉に接するおばあちゃんみたいな態度だし!」

「あぁー……あぁ~?」

 何にせよ、親友は二人の仲がピンチな事は間違いないと悟ったようだ。

「絶対他に好きな子ができたんだ! どうしようこのままじゃ近々間違いなく別れ話まで一直線だよぉ!」


 この後も彩乃は『以前と比べ、いかに彼氏の態度が冷めているか』について熱弁を続ける。それらをしばらく親身になって聞き流していた親友だったが、らちが明かないと感じたのか彩乃へ一つのアドバイスを投げかけた。


「やっぱり本人に直接確認するしかないんじゃない?」

「でも……他に好きな子がいると知っちゃったらショックだし……」

 もう知らんわと親友が匙を投げたのを機に、その場は解散となった。


 そして、その日の夜だった。彩乃のスマホに「俺達の今後について大事な話がある」というメッセージが送られたのは。



『俺達の今後について大事な話がある』

 このメッセージ、彩乃からしたらこの世の終わりを宣告されたに等しい。

(イヤだ。別れたくない。イヤだ。私の何がいけなかったんだろう。イヤだ。どうして……)

 待ち合わせ場所のファミレスにて、脂汗をひっきりなしに流しながら、ただひたすらに呪文を唱える彩乃の姿がそこにはあった。


(待てよ。本当に別れ話なのかな。よく考えたら別れ話の待ち合わせ場所がファミレスってのも、なんとなく一般的ではない気もする。これまで別れ話された事無いけど)

 一縷いちるの望みを胸に、彩乃はスマホのメッセージを見返す。

『俺達の今後について大事な話がある』

(……ダメだ。別れ話以外に考えられない……)

 彩乃はガンと音を立てながら机に頭を突っ伏した。彩乃の周りにいた客が、その音を聞くなり不思議そうに彼女の方へと視線を送る。


(いやもしかしたらプロポーズか? いや、こんなシチュエーションでそんなの絶対ありえない……じゃあ一緒に起業したいとか? 今までそんな素振り1ミリも見せてこなかったのに?)

 巻き起こった思考の渦により彩乃の頭が熱暴走しそうになったその時、てるが彼女の前に姿を現した。待ち合わせ時間の20分前だった。



 互いに簡素な挨拶を交わしたのちテーブルを挟んで向かい合った、 揃って神妙な面持ちの二人。

「急にゴメン、実は聞いてほしい話があるんだけど……」

「分かってる。覚悟はしてきたから。延命措置なんてしなくていいから、単刀直入に話して」

「それについてなんだけど……今から話す事は決してふざけてるだとか冗談とかじゃないから。絶対茶化さずに聞いてほしい」

(……? どういう事だろう。別れ話が冗談とはどういう了見?)

 想定外の警告を聞き、わずかに首をかしげる彩乃。


「よく分かんないけど、約束する。真面目に聞くから、早く話して」

 彩乃のその言葉を聞いて、しばらく黙り込む照。数秒が経過したのち、いよいよ何かを決心したような表情で彩乃に語り出した。

「実は俺、年齢が偶数の女の子しか好きになれない体質なんだ」


 あまりにも予想外なその告白に、マンボウのような表情を浮かべその場から動かなくなる、花も恥じらう19歳。小島彩乃だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る