呪われしヤクザ・憎まれし尼僧

 これは母親から聞いた話だが、私の母親は話に脚色を加える節があるので、どこまで定かなのかは微妙だ。いつあった話なのかも分からず、もしかすると私が生まれる前のことかもしれない。

 ともかくもある日、この寺を訪れる客人がいた。母親が応対すると、その人の手に豪奢な刺青でもあったのか、一目で堅気でないと分かる風貌だったらしい。

 その人の依頼は、「呪われた刀を処分してほしい」というものだった。

 母親はヤクザらしき相手でも臆することなく、というか寺はヤクザだろうが誰であろうが必ず利用するものなのでもう慣れているらしく、はいはいと返事をしてその刀を受け取った。

 その瞬間、母の歯が抜けたのである。

 しかも入れたばかりの銀歯が、である。

 母は直感したそうだ。「これは歯抜けの呪いだ!」と。

 それでこのしょうもない話は終わりである。その歯抜けの妖刀がどこにいったのかについては語られなかった。母屋の中庭にある扉の開かない蔵の中にも刀があるらしいが、それがその呪われた刀なのかどうかは分からない。人形などはお焚き上げをするそうだが、刀は焼いたとしても残るだろうから、恐らくはどこかに眠っているはずである。


 思っていたよりも短くまとまってしまったので、刀つながりでもう一つ聞いた話をする。これは私の育った寺でのことではなく、おそらくは母が寺族婦人会で聞いてきた話である。

 とある寺にとある尼僧がいた。その尼は性格が非常に悪かったらしく、娘婿をいつもいたぶっていたらしい。それでついに堪忍袋の緒が切れた娘婿は、その寺にあった日本刀を持ってその尼を追いかけ回したんだそうな。

 書いてみてつくづく古文に出てきそうな話だと思う。日本刀が現代的なものに思えるほどである。

 ということで、どこの寺にも刀はあるものなのかもしれない。仏の顔も三度までと言うが、僧侶も怒らせるとただでは済まなそうだ。

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