第36話
「みなさん本日付で視察課に配属になった冷徹斎貫徹くんです」
「どうもよろしく」
朝礼でご紹介に預かった私は屈託のない笑みで挨拶をしてみせた。しかしながら地獄の管轄部署なのにこんなさびれた雑居ビルの二階にあるとは。
「本来は二週間前に着任だったのですが……」
「道に迷ってしまいまして候」
あえて茶目っ気を出したものの私以外くすりとも笑っていない。そのかわりにまばらな拍手をもらう。
「じゃあ早速だけど業務の説明をしてもらうから局長のところに行ってくれ」
「合点」と言われた通りに局長室と書かれた別室のドアをノックする。
「入りなさい」
足を踏み入れると穏やかそうな中年獄卒が机に頬杖をつきながら鎮座していた。
「冷徹斎貫徹くん、
その言葉を聞いて、私は「おっ」っと関心した。たしかに我が父冷徹斎宗徹は短い期間ではあるが、今の司命とともに司録をやっていたことがある。しかし我が父をその役職で呼ぶ獄卒は少ない。
「不思議って顔だね、私はきみの父上の下で仕事をしていたことがあったのだよ」
「それは失礼私としたことが存じ上げなかった」
「いいさ、きみを見ているとあの鬼のことを思い出す……無茶苦茶だが良い鬼だった」
今は亡き我が父をそのように思ってくれるだけでありがたい。私はこの鬼が局長ならばやっていけると感じた。
「して、局長どの私はいったいどの邪気を払えばよろしいか?」
「ん? 邪気なんてとうぶん払わなくていいよ」
「はてな?」
局長の説明によると業務云々よりもまずは浮世になれることが重要なのだという。人間の生活リズムを知るためにも浮世で生活し、浮世の食べ物を食べ、できることなら浮世の人間と交流するのが吉だそうだ。
「最初の三か月は二週間に一度レポートを提出してほしい」
「はぁ、そんなことでいいのか」
息巻いて視察課に来た私としては少々面を食らってしまったが、逆を言えば三か月は遊んで暮らせるというわけだ。給料をもらいながらこんなラッキーはそうそうないだろう。
「ただしその期間、鬼以外の人ならざるものとの接触は禁止」
うん?
「あと人間の生き死ににも関与しないこと」
う、ううん?
「まして神に悪態をつくなどもってのほかだからね」
う、ううううん?
聞き捨てならぬ言葉の羅列に頭がくらくらする。
「わ、私に限ってそんなへまはしないがまぁその破ったらどうなる?」
「破ったら、懲戒免職のうえ灼熱かなぁ」
頭を抱えそうになるのをおさえて頑張ってはいるものの、つい先日のことが公になれば私の獄卒としてのキャリアがおじゃんどころか、すべてが終わるのであった。
「とまぁそんなことよりも、今日から三か月自由行動だ。存分に浮世を堪能してくれ。以上解散!」
と言われ午前中には解放された。脅されはしたが今のところ先日起こしたトラブルについては音沙汰なしのようで安心する。
「まぁ早い話がバレなきゃいいのだ」
とりあえず適当に浮世で遊んで、ではなく視察して適当なレポートを書き終えてしまおう、さすればようやく二代目に会いにいける。
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