第25話

「なんか、濃厚なにおいがするけどお嬢さんなにこれ?」


「今日ハンバーグなんで、デミグラスソースを作ってまして」


 死神の質問にセラが答えると、死神は明らかに不満げな顔をして訊ねた。


「どうして地獄の鬼が天使なんかと仲良くしてるんだ」


「そんなのお友達だからに決まってます」


「そうかい」


 死神はふらつきながら立ち上がり痛みに顔をしかめていた。


「それよりあなた、セラのお友達に乱暴致しましたね」


 セラのクリっとした丸い目がグッと鋭くなる。背中に生えた翼を命一杯広げて威嚇しているように見えた。


「おいおい、まいったな天界の関係者さんとやりあうつもりはないんだが」


 死神はおもむろに愛想笑いを浮かべた。


「セラ、私に任せてくれ」


 私はセラの後ろ肩を掴み言った。彼女の心配そうな横顔とはうらはらに私はやる気満々だった。右手の親指で自分の胸を指し示し高らかに言い放った。


「私は八大地獄の統括者、冷徹斎宗徹が父、冷徹斎貫徹である。幼少期から売られた喧嘩は神だろうが買えと育てられてきた!」


 私は地獄の力を解放した。大岩を生き血で真っ赤に染めたようなごつごつしたおぞましい顔に南瓜がまるまる一つ入るくらい大きい目玉がぎょろっと睨みをきかせ、口が裂けるほど巨大な牙は顎の位置まで伸び、頭から生えた二本の角は夜空に向かって突き刺している。


「……貫徹様」


 私は地獄で散々亡者を屠ってきたかのごとき大鬼に姿を変え、牙を剥き腹の底から声を出した。


「さっきはよくもやってくれたなっ! 死神ーっ!」


 死神は私を見上げ、


「おやおや、こりゃまぁ……」

 

 ほくそ笑みながら両手をあげた。


 そして一目散に走り出す。

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