第24話

 さきほどまで二本足で立っていた地面に片膝をつけないと今にも倒れてしまいそうだ。


 霊力を奪われるとういうことは身体的にしんどいもので、一抹の不安と筋肉の弛緩によるだるさで急激に眠くなる。こんな小汚い道の脇で意識を失うのはまっぴらごめんだ。


「それにしてもまだ意識を保ってられるとは地獄の鬼も捨てたもんじゃないな」


「学生風情に付きまとう変態とは違う」


「付きまとっているとは心外だな、俺はただ監視しているだけさ」


「ふんっ、神と名乗るわりに覗き見とはな、まことに矮小である」


「ひどいことを言う、神なんて言葉に踊らされているがノルマもあるし、未達だとペナルティーだってある。大変な仕事なんだぜ」


「だったら全力で邪魔してやる」


「それは困ったな」


 死神はそう言って、誘導棒を私に向けた。誘導棒はスイッチ一つで発光すると点滅を繰り返し、瞬きをしている間に大鎌に変化していた。油断したら寝首をかかれると思った私は今いちど体勢を立て直そうと意を決して立ち上がり、相手との距離をとるため素早く後退した。


「しかしお前よく動けるな、さながら閻魔の倅だな」


「閻魔の息子だと、なぜ死神のお前が二代目を知っている!」


 私は思わず唾を飛ばしながら言った。


「なんだ知り合いか?」


「誤魔化すな、私はお前と二代目の関係を聞いてるんだ、その口ぶりからしてただの知り合いってこともなさそうだな」


「知り合いも何も閻魔の倅なら……」


 死神が思い出したように口を開いたちょうどそのときであった。


 月あかりを背に夜空から飛来した鉄の塊が死神の頭に激突し、彼は目から火花を散らさんばかりの衝撃を受けたかのように膝から崩れ落ち仰向けにひっくり返った。何事かと死神を昏倒させたもの見れば、それはここ数日見慣れていたフライパンである。哀れな死神。数秒前までの威勢はどこへやら身をひるがえしながらもん絶しており、余裕の表情で構えていた大鎌は死神の手元から離れるとただの誘導棒に戻っていた。


 私がその誘導棒を取り上げようとすると、死神は慌てて身を起こし、素早く誘導棒を手中に収める。「仕事道具に触るな」と私を睨んだ。敵ながら呆れたプロ根性である。


 不意に月夜の空から舞い降りてきた天使が一目散に私に駆け寄ってくるのが見える。


「ご無事ですか貫徹様!」


 セラが言った。


「助かった」


「もう、晩ご飯が冷めてしまいます」


「そうか、ちなみに晩ご飯は?」


「ハンバーグですよ」


 うん。それは早く帰らないと。

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