第23話
「なんてな」
ぽんっと首筋を触れたのは大鎌の冷たい刃ではなく、誘導棒の先端だった。
「あれ」
「坊や驚かしてすまない」
男は誘導棒を腰に吊るしたホルスターに戻す。月に照らされた光の中に骸の姿は消え、そこには青い警備服を着たさえないおじさんがだらしない笑顔をひっさげ突っ立っていた。
「お前は悪魔か何かか?」
「悪魔? 俺は死神だが」
「死神!」
「おいおい、坊やだって地獄の鬼だろ」
死神は怒っているようにも、面白いがっているようにも見える。
唐突に彼は「あの大学生に構うのはやめろ」と言った。
「忠告だ。あの娘は死に瀕している。鬼の坊やが関わってもいいことなんてないぞ」
続けざまにそう言って反応を窺うこの死神に私はハッとした。私と恵美子の関係を知っているのは恵美子が言っていた変態野郎に違いない。
「そうかお前が気味の悪いストーカーか! しかしなんで恵美子が死ぬのか? 皆目見当がつかない」
「ストーカー? なんのことかよく分からんが」
「うそこけこの変態マゾ野郎! 恵美子の郵便受けにいたずらしたり、いんすた? なるものになんやかんやしたのは貴様だろう」
「地獄の鬼ってやつは訳が分からん事柄を並べるのが好きらしいな。ただ嘘なんてついてない見当はつくだろう? その証拠に俺がいる。俺は死神だぜ。いたいけな少女だろうが、真面目な青年だろうが慈悲はない」
「自らの人生を好転させようともがいている娘もか?」
「例外はない。それに人間の一生なんてなんの意味もないのさ」
「意味のない人生なんてない」
「そう思いたいだけさ人間てやつは。悲しいかな決められた運命ってやつには逆らえない」
「血も涙もない死神め」
「おいおい、俺は親切で忠告してるだけだぜ。わかってるのか人間の死にこの世のものではない存在が手を加えたら天界から制裁を受けるぞ。それに坊やだって血も涙もない地獄の鬼じゃないのか? 俺とお前でなんの違いがあるというのだ。あと今の俺はただのしがない警備員だぞ」
死神は肩口にかけた白いひもを右手でくるくるとまわした。先端に結び付けていた警笛が微かにヒューヒューと音を立てながら宙を舞う。
それを見つめているうちに私は頭がくらくらしてきて、気が付いたときにはちと遅かった。
「さっき誘導棒が坊やの首筋に触れたとき霊力をあらかた奪っておいた」
死神はズボンのポケットに手を突っ込んで白々しい笑顔を向けた。
「坊やがあの大学生に構わないと誓うまで奪った霊力はかえさない」
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