第12話

 そういえば門の番人、馬頭めず牛頭ごずに会うのも久しぶりだ。門の番人、馬頭と牛頭は名前の通りそれぞれ頭は馬、牛で下半身は人身の姿をしている獄卒である。彼らの仕事は浮世と地獄をつなぐ門を取り締まることだ。昔は規制が曖昧だったために私は大人の目を盗んでは二代目とともに浮世によく遊びに行っていたものだ。


 全速力で地獄の山や谷を越えていくと門が目の前に見えてきた。私は勢いそのままに門の扉をぶち破ろうとした時だった。


「止まらぬか! 許可なく門を開ければ等活地獄の多苦処にて拷問を受けることとなるぞ」


 懐かしい声が鉄でできた門にぶつかりこだまして耳に入り私の脳を揺らした。門の手前で止まり振り返るとひとまわり大きい獄卒が仁王立で笑っていた。


「馬頭、牛頭!」


 駆け寄ると馬頭が表情をやわらげ私の頭を荒々しくなでた。


「大きくなられましたな。坊っちゃん」


 牛頭はそう言って私の頬をつねった。


「元気にやっとりましたか?」


 私は馬頭の巨大な手を払いのけ言った。


「元気でやっていたさ」


 長い時間の流れは悪餓鬼を変えた。私はこれでも成長したつもりだったがふたりの前に立つとあの時のどうしようもない無鉄砲な子鬼に戻ってしまう。


「これは閻魔大王様から頂いた通行許可書だ。ほらしかと見よ! ここに六大地獄の衆合地獄統括長の推薦印もある。ももちろんこの閻魔印もあの時とは違い偽物ではないぞ」


 馬頭と牛頭は注意深く筆跡を確認する。二人は二代目の事件以降、必要以上に門の警備を強化してきたのだ。しかしそうは言ってもなかなか承認をえられないことに苛立ちを隠せなかった。


「馬頭、牛頭名残惜しいが私は行かねばならない」


 馬頭と牛頭は黙って頷いた。


「坊っちゃん。これを」


 牛頭は巾着袋を取り出して私の手のひらの上にのせ握らせた。


「これはなんだ」


「さきほど閻魔大王様から申し付けられましたものです。現在の浮世は坊っちゃんが思っているより複雑なんですよ。これをお持ちになってください」


「わかった」


「坊っちゃん私からはこれを」


 馬頭は一枚の紙きれを手渡した。


「浮世の情報と視察課がある場所が記されています」


「なにから何まですまない」


 私は門の扉に手をかざすと満身の力を込めて押した。


「視察課への挨拶がすんだら浮世の街並みを見学するのがいいでしょう。門は視察課のすぐ近くに導いてくれます」


 すると音を立てながらゆっくり開き始めてまばゆい光に包まれた。


「坊っちゃんお身体にお気をつけて〜」


 ふたりの声が遠のいて私はだんだんと意識が薄れた。

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