第11話

「視察課に配属されるの怖くないんですか?」


 業務が終わり帰路につく車の中でハンドルを握った鳥奴火がつぶやく。


「怖い? お前獄卒が浮世を怖がって務まるか」


 私は窓の外の景色を眺めながら頬を緩めた。


「いえ、そうではなく、僕は同僚から視察課は、浮世の人間たちを観察して、多様な文化や価値観に触れ地獄に新たな罰や拷問の提案をするところだときいたことがありまして、でもその業務の中で人間の底知れぬ、煩悩や欲望にあてがわれ鬱になったり、負の感情に取り憑かれ妖になる鬼もいると……」


「なんだお前は私のことを心配してくれてるのか、案外可愛いやつめ」


 言葉を選びながら喋る鳥奴火の頭をぐりぐりすると、彼女は心底嫌そうな顔をする。


「やめてください、セクハラで訴えますよ」


 私はその言葉にびくつきすぐに手を離す。


 こんなところで後輩に訴えられたら、私は今度こそ職を失うだろう。


「でも心配なのは本当です。あなたは案外打たれ弱いから」


「まぁお前に言われるとなんも言えんが」


 プライベートの時間以外、ここ最近の業務を一緒にこなしてきたのだ。我孫子や莫迦羅に指摘されるよりも真面目に受け取ってしまう。


「まぁしかしそこまで嫌になったら地獄に帰ってくるさ、なんせ私はサボりの貫徹。やってる感だけで、一時期二代目に代わり等活地獄の統括長代理まで出世した獄卒だぞ」


「……そうでしたね」


 納得いっていないような顔をするものだから、つい鳥奴火の頭をはたいてやろうと手を伸ばすことを予期していたように私の右手は弾かれてしまった。バツが悪くなった私はただひたすらに景色の流れを横目で追い越していた。

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