第21話 インターネット老人会

 『まおう』には「“啜り呑む者”アトレ」と記載があり、ここをタッチするとアトレの系譜が表示された。

 アトレの下に俺、俺の下に紫水の名前が出てきたのだ。というか、俺の付けた名前がシステムに反映されてしまっているのはいいのかコレ。


 どこまで増やせるのか不明だが、数を増やす目的があるのなら便利な機能だろう。枝葉がどこまで伸びたのか、幹がどれだけ太いのかがすぐ分かる。


 俺としてはアトレそのものの情報が拾えたら嬉しかったのだが。

 本人はかなり話してくれるが、いかんせん人種どころか種族すら違う知性体に対する理解が足りていない。口語だけではなく文書情報があるなら一読したかった。


 最後に横棒グラフのように伸びたバーだが、紫水が言っていたMPとやらはこれのことだな。

 七色に輝いて床屋の棒みたいにぐるぐる回っている。どうしてお前はそう目立ちたがるんだ。おそらく満タンの演出だろう。そうであってくれ。


 ゲームなら生命の残量を表すHPもあって良さそうなものだが、残念ながらMPしか存在しないようだ。


 幸いにもこのあたりに詳しそうなやつが隣にいる。俺はアトレに尋ねた。


「アトレ、このMPって何なんだ?」

「知らぬが」


 即答されたことに俺は唖然とした。


「し、知らない?」

「ステイタスは妾のものではないからの。そのようなものが備わっていることを知っとるだけで、中身まで網羅しているはずがなかろ」


 そんな不確かな力を付与されたってワケ?


 何を確かとするかは諸説あるかもしれないが、さすがに無責任が過ぎる。責任の有無がアトレの行動選択に影響あるかはさておいて。影響なさそう。


「細かいことが知りたいのなら妾ではなく、このシステムを作った者に直接訊けばよかろーに」


 だるい声音から、今の話題に興味を失っていることがありありと分かる。眠りにつくまで後十秒。


「って、直接確認できるのか!?」

「そういうものなのだろ、この世界での“ゲーム”というのは」


 インターネット接続が前提のゲームならGMコール、カスタマーセンターへの問い合わせは搭載されていてしかるべきだけども。


 紫水が袖を引いた。


「センパイ、もしかしてこれですかね?」


 そういって見せられたのはステイタスボードの裏側だ。必要がなくて気付かなかったが、これひっくり返せるのか。


「……これ、とは?」


 しかし、紫水の言うこれを見つけられない。半透明の不可解な板でしかないぞ。


 紫水はボードの中央を指で示した。


「拡大したら分かると思うんですけど、うすーくちいさーくピクトグラムが描かれているような」

「全然見えねえ」


 スマホのカメラを使って最大倍率にして、ようやく塩粒程度の点が見えた……ような気がする。スマホに映る物体で良かった。

 俺のステイタスボードにもあったので、これはデフォルトの機能なのだろう。


「お前、よくこれがピクトグラムだって分かるな」

「昔から目はいいんですよ」


 顕微鏡並の視力をそれで済ませていいのか。マサイ族より目が良いのでは?


「でもこれがGMコールだとは限らねえんだよな」

「分かりませんけど、詐欺みたいに隠してある以上、載せなきゃいけないけれどもなるべく使わせたくない機能なのではないですかね。怪しくないですか?」

「そういうことなら、どんな機能だろうと使わせていただきたいものだな」


 再び目的が明後日の方へと飛んだ。

 MPの意味や弊害については二の次となった。


 ゲームマスターとやらに嫌がらせの一つや二つ、できるものならしてやりたい。わけわかんねーゲームに巻き込みやがって。なお仕事辞めるきっかけをくれて感謝!!!


 この形すらよく分からないピクトグラムはどうやって使うのか。

 検証したところ、一分以上の長押しが正解だった。見つけるのが困難な上に偶然ではほぼ絶対気付けない。使わせる気が皆無すぎる。


 果たして、隠されたその機能とは。


「御参加いただきありがとうございます、だぁ……?」


 よくこの隠し画面を見つけましたね、おめでとうございます! みたいな文章が現れた。


 それだけ。


 だらだらと意味のなさそうな文章がボードいっぱいどころか、スクロールしてもしても途切れない。


 最後まで一気に飛ばしたら、遊び心の隠し機能がたくさんあるから探してみてね、と締められていた。


「いらねえ機能つけやがって!」


 一昔前のゲームで流行った開発者コメントの仕込みかよ!


「虹色に光るボードといい、なんでまたこいつのセンスは古いんだ……。インターネット黎明期のバケモンか?」

「インターネット老人会……もしかして、この文章って反転するんですかね」

「……いや、そんな、まさかリンク隠しなんて」

「ええと、ありました」

「あるのかよ!?」


 アンダーグラウンドに誘われたオタクみたいな真似をしやがって。


 スクロールの半ば、改行の妙で発生しているスペース。密かに打ち込まれたドットが、文章選択による反転で色の違いを暴かれている。


 この先に自作イラストとか置いてあったら、地球産のインターネットにばら撒いてやるからな。


 リンクを踏んで現れたのは、ようやくの問い合わせフォームだった。上部に問い合わせ、と記載されていて、四角で囲われたスペースがあるのだから、そうだろう。


 先ほどまでと比較して、非常に簡素な造りとなっている。問い合わせ受ける気なさそう。


「うわ、タッチすると文字が書けるけど消す手段がないですね」

「嫌がらせの度合が小学生みたいだな」


 スペースもさほど広くないところに指で書かせるあたり、意地が悪い。謎キーボードとか用意してくれよ。


「まあとりあえず訊いてみましょう。『我MP詳細情報希望』と」

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